売買による不動産の名義変更の用語
始めに売買による不動産の名義変更の用語を説明します。
売買契約
売買契約とは、特定の財産と金銭を交換する契約です。また、売買契約の対象である土地が農地の場合は農地法の許可を受けなけれな売買契約の効力は生じません。農地法の許可の説明はここでは割愛します。
登記権利者
登記権利者とは売買契約によって不動産を取得する者(買主)です。
登記義務者
登記義務者とは売買契約によって不動産を譲渡する者(売主)です。
登記権利者及び登記義務者という言葉は不動産登記法上の用語であり、登記申請書の作成や、添付書類の説明の際に使用されることが多いです。
所有権移転登記
不動産の売買契約を締結した場合、売主から買主への不動産の名義変更をします。この名義変更を所有権移転登記といいます。
売買による所有権移転登記の流れ
次に売買による所有権移転登記の流れを説明します。
手順1
売買契約の対象不動産を把握するために、固定資産税の課税明細書を確認します。
手順2
売買契約の対象不動産を確定するために、手順1で確認した不動産の、登記事項証明書を法務局で取得します。
手順3
不動産登記事項証明書の所有者欄を確認し、所有者の住所・氏名に変更がないか確認します。ここで、住所・氏名に変更がある場合には先に住所氏名変更登記が必要です。また、相続登記が必要な場合は先に相続登記が必要です。(住所氏名変更登記と相続登記いずれも必要な場合にはこれらのどちらを先に申請しても構いません。)
手順4
売買契約書を作成し、売買契約をします。また、所有権移転登記に必要な書類を取得します。
手順5
法務局に提出する所有権移転登記の申請書を作成します。申請書のひな形はネットで「所有権移転登記申請書 売買 法務局」で検索すると、法務局のページからダウンロードできます。
手順6
申請書、収入印紙及び添付書類を管轄法務局に提出します。管轄法務局が遠方であれば郵送でも構いません。(法務局に書類を提出する前に、法務局の無料相談で書類に不備がないか確認してもらうと申請手続きがスムーズに進みます。)
手順7
登記完了後、登記権利者が法務局で登記識別情報を受け取ります。登記識別情報は郵送で受け取ることもできます。
以上が売買による所有権移転登記の流れです。
売買による所有権移転登記の必要書類
次に売買による所有権移転登記の必要書類を説明します。ここでは登記義務者が登記権利者に登記申請にかかる委任状を交付して、登記権利者が単独で所有権移転登記申請をする場合の必要書類を説明します。
売買契約書
売買契約書は売買契約を証明する書類です。不動産の売買契約書のひな形はネットで「売買契約書 ひな形 法務局」で検索すると出てきます。
売買契約書には登記権利者と登記義務者がそれぞれ署名・押印します。売買契約書の押印は認印で構いませんが、念のため両者実印を押印し、互いに自分の印鑑登録証明書を交付するとよいです。売買契約書は登記申請書の添付情報欄の「登記原因証明情報」にあたります。
権利証
権利証とは登記がされたことを証明する書類です。具体的には登記済証又は登記識別情報です。
ところで、所有権の登記が完了した際には、新所有者に対して登記済証又は登記識別情報が発行されています。そして、売買による所有権移転登記には登記義務者が保有する登記済証又は登記識別情報が必要です。
なお、登記義務者が権利証を紛失している場合には事前通知の手続きをとります。事前通知の手続きの説明はここでは割愛します。
委任状
所有権移転登記は登記権利者と登記義務者の両方が手続きに関与しなければなりません。但し、登記義務者が登記権利者に対して委任状を交付すれば登記権利者が単独で登記を申請できます。この場合の登記義務者の委任状には実印を押印します。また、登記義務者の委任状を提出する場合は、登記義務者は登記申請書に署名押印する必要はありません。
委任状は登記申請書の添付情報欄の「代理権限証明情報」にあたります。
印鑑登録証明書
登記義務者は委任状に押印した実印の印鑑登録証明書(3ヶ月以内)を添付します。
住民票の写し
登記権利者の住民票の写しが必要です。登記権利者の印鑑登録証明書でも構いません。
固定資産税の課税明細書
所有権移転登記における登録免許税を算定するため、不動産の直近の固定資産税課税明細書を添付します。固定資産税の課税明細書には固定資産税の評価額が記載されてあり、これが課税価格のもとになります。なお、固定資産税の名寄帳や固定資産税の評価証明書でも構いません。
住宅用家屋証明書
住宅用家屋証明書とは建物の所有権移転移転登記に発生する登録免許税の減税を受けるための証明書です。売買する建物が減税対象であれば登記前に建物所在地の市町村で取得します。住宅用家屋証明書は登記申請書の添付情報欄の「減税証明書」にあたります。
不動産の登記事項証明書
不動産の登記事項証明書とは、不動産の登録内容を証明する書類です。不動産の登記事項証明書は法務局が発行するもので、登記事項証明書が取得できる法務局であれば、不動産の所在地を問わず、全国どこの法務局でも取得できます。そして、不動産の登記事項証明書を確認することで、所有権移転登記の対象である不動産を特定したり、住所氏名変更登記や相続登記の要否を確認したりできます。
また、法務局で登記事項証明書を取得する代わりにインターネットで登記情報を取得することもできます。登記情報とは登記事項証明書の内容をインターネット上で確認するものです。もっとも、登記情報の取得には登録手続きが必要ですので、所有権移転登記のためだけに登記情報を取得することはかえって手続きを煩雑にする可能性があります。
なお、不動産の登記事項証明書及び登記情報は登記申請書の添付書類ではありませんので法務局に提出はしませんが、登記申請書の作成に必要な書類です。
以上が売買による所有権移転登記の必要書類です。
売買による所有権移転登記申請書の書き方
最後に売買による所有権移転登記申請書の書き方を説明します。ここでは登記義務者が登記権利者に登記申請にかかる委任状を交付して、登記権利者が単独で所有権移転登記申請をする場合の書き方を説明します。
申請書はA4サイズで作成します。また、収入印紙を貼り付けるためのA4の白紙1枚も準備します。申請書に記入する事項は次の通りです。
登記の目的
登記の目的には「所有権移転」と記入します。
登記の目的 | 所有権移転 |
また、夫婦や親子などで不動産を共有している場合に、共有者の1人がその持分を売買する場合は、登記の目的には「〇〇持分全部移転」と記入します。この○○には不動産持分の売主の氏名が入ります。
登記の目的 | 田中花子持分全部移転 |
原因
原因には売買契約による所有権の移転日及び「売買」と記入します。
原因 | 令和4年4月1日売買 |
権利者
権利者には登記権利者(買主)の住所・氏名・連絡先を記入し、認印を押印します。
権利者 | 島根県松江市殿町一丁目1番1号 田中太郎 ㊞ 電話番号 090-0000-0000 |
義務者
義務者には登記義務者(売主)の住所・氏名を記入します。また、登記申請書には添付書類として、登記義務者の委任状を添付しますので、登記義務者は登記申請書の義務者欄に署名・押印する必要はありません。
義務者 | 島根県松江市殿町一丁目1番1号 田中花子 |
添付情報
添付情報には「登記原因証明情報」、「登記識別情報又は登記済証」、「印鑑登録証明書」、「住所証明情報」、及び「代理権限証明情報」と記入します。住宅用家屋証明書を添付する場合にはこれに加えて「減税証明書」と記入します。
添付情報 | 登記原因証明情報 登記識別情報又は登記済証 印鑑登録証明書 住所証明情報 代理権限証明情報 |
申請日及び管轄の法務局
申請日には登記申請書を法務局に提出する日を記入します。郵送の場合は発送日で構いません。
また、申請日の横に、登記を申請する管轄の法務局名を記入します。管轄の法務局とは不動産の所在地を管轄する法務局です。管轄の法務局はネットで「〇〇市 不動産登記」と検索すれば出てきます。
令和年月日申請 | 松江地方法務局 御中 |
課税価格
課税価格にはその金額を「金○○円」と記入します。課税価格は登録免許税の算定の基礎となるものです。
課税価格は、申請する不動産の固定資産税評価額の合計額の下三桁を切り捨てた額です。固定資産税の評価額は固定資産税の納税通知書に記載されてあります。そして、固定資産税の評価額は直近年度のものです。
例えば、土地Aの評価額が7,654,321円、土地Bの評価額が1,462,154円で、建物の評価額が2,356,521円の場合、まず土地Aと土地Bの評価額を足します。すると土地の評価額の合計額は9,116,475円です。次に、この額の下三桁を切り捨てます。すると課税価格である9,116,000円が算定されます。
次に、建物の評価額の下三桁を切り捨てます。すると課税価格である2,356,000円が算定されます。
これが課税価格の算定方法です。
なお、土地の評価額の合計額と、建物の評価額を合算しないのは、売買する土地と建物では後述する登録免許税の税率が異なるからです。これに対し、不動産の贈与や財産分与の場合には土地と建物の登録免許税の税率が同じですので、この場合は土地の評価額と建物の評価額は合算します。
また、敷地権付区分建物の課税価格の算定はこれより複雑です。敷地権付区分建物の課税価格の算定方法の説明はここでは割愛します。
課税価格 | 土地 金9,116,000円 建物 金2,356,000円 |
登録免許税
登録免許税にはその金額を金〇〇円と記入します。登録免許税の額は、課税価格に税率を乗じた額の下二桁を切り捨てた額です。
まず、土地売買における所有権移転登記の税率は現時点で1.5%です。
例えば、土地の課税価格が9,116,000円の場合、9,116,000円の1.5%にあたる額は136,740円です。そして、この税率1.5%は租税特別措置法72条に基づく減税措置ですので、金額の横に根拠条文として「(租税特別措置法72条)」と記入します。
登録免許税 | 土地 金136,740円(租税特別措置法72条) |
次に、建物売買における所有権移転登記の税率は原則2%です。但し、住宅用家屋証明書を添付して租税特別措置法73条に基づく減税措置を受ける場合の税率は0.3%です。
例えば、課税価格が2,356,000円の場合、2,356,000円の0.3%にあたる額は7,068円です。そして、金額の横に根拠条文として「(租税特別措置法73条)」と記入します。
登録免許税 | 建物 金7,068円(租税特別措置法73条) |
最後に土地と建物の登録免許税額を合算し、この額の下二桁を切り捨てます。
すなわち、136,740円+7,068円=143,808円となります。そして、この額の下二桁を切り捨てた値は143,800円です。これが登録免許税額です。
登録免許税 | 合計 金143,800円 |
(なお、この算定方法による算定の結果が1,000円未満となった場合、登録免許税は一律1,000円です。登録免許税は収入印紙で納付しますので、登録免許税の金額分の収入印紙を購入し、A4サイズの白紙に貼り付けます。)
不動産の表示
不動産の表示には、土地であれば所在・地番・地目・地積を、建物であれば所在・家屋番号・種類・構造・床面積を記入します。これらは不動産の登記事項証明書のとおりに記入します。
所在 地番 地目 地積 |
松江市殿町一丁目 11番 宅地 100・00平方メートル |
所在 家屋番号 種類 構造 床面積 |
松江市殿町一丁目11番地 11番 居宅 木造かわらぶき2階建 1階 40・00平方メートル 2階 30・00平方メートル |
また、いわゆる分譲マンションなどの区分建物の不動産の表示はこれらと異なります。
敷地権付区分建物の場合、始めに一棟の建物の表示として、一棟の建物の所在、建物の名称を記入します。次に専有部分の建物の表示として、専有部分の家屋番号、建物の名称、種類、構造、床面積を記入します。さらに敷地権の表示として、符号、所在及び地番、地目、地積、敷地権の種類、敷地権の割合を記入します。これらも不動産の登記事項証明書のとおりに記入します。
一棟の建物の表示 所在 建物の名称 |
松江市殿町一丁目1番地 殿町マンション |
専有部分の建物の表示 家屋番号 建物の名称 種類 構造 床面積 |
殿町一丁目1番の201 201号 居宅 鉄骨造10階建 3階部分 70・52平方メートル |
敷地権の表示 符号 所在及び地番 地目 地積 敷地権の種類 敷地権の割合 |
1 松江市殿町一丁目1番 宅地 600・00平方メートル 所有権 1000分の15 |
その他
以上が登記の申請書の書き方ですが、これらの事項以外に申請書に記入すべきことがある場合、申請書に「その他」欄を追加し、この欄に記入します。例えば、登記識別情報の通知を希望しない場合には、「その他」欄に「登記識別情報の通知を希望しない。」と記入します。
所有権移転登記が完了すると登記権利者には原則登記識別情報が交付されます。しかし、登記権利者が登記識別情報の交付を希望しない場合、その旨を登記の申請時に申し出ると、登記識別情報の交付はなされません。なお、登記識別情報の交付につき特別の事情がなければ、登記識別情報の交付を希望すればよいです。
綴じ方
最後に申請書、収入印紙を貼った紙、添付書類の順番で重ねて、左端二か所をホッチキスでとめます。そして、申請書と収入印紙を貼った紙に契印(割印)をします。また、売買契約書と住宅用家屋証明書の原本の返還してもらために、これらのコピーを申請書と一緒に綴じ、原本は綴じません。
登記識別情報
ところで、登記義務者の権利証が登記識別情報であり、これを添付書類として提出する場合、特別な扱いが要請されています。すなわち、登記識別情報は申請書と一緒に綴じずに、登記識別情報をコピーし、そのコピーだけを封筒に入れて提出します。また、登記識別情報はその目隠しシールを剝いだ上でコピーしなければなりません。そして、登記識別情報の原本は法務局に提出しなくてよいです。
なお、これは書面申請の場合の登記識別情報の提出方法です。電子証明書を利用したオンライン申請における登記識別情報の提出方法はこれとは異なります。オンライン申請の場合の取扱いの説明はここでは割愛します。
登記済証
これに対し、登記義務者の権利証が登記済証の場合にはこれをコピーして、封筒に入れる必要はありません。登記済証とは、契約書などに「登記済」の赤いハンコが押されている書類です。また、登記済証は申請書などと一緒に綴じません。なぜなら、登記済証は登記完了後に返却されるからです。