事例
- AとBは兄弟姉妹です。
- AとBは甲土地を各々2分の1、乙建物を各々2分の1所有しています。
- 現在乙建物は他人に賃貸しています。
- Bは賃借人から賃料を受領し、その半分をAに渡しています。
- 固定資産税の納付手続きはBがしています。
- AとBは将来的に甲土地及び乙建物を売却したいと考えています。
問題の所在
不動産を複数人で所有することを「共有」と、共有している人を「共有者」といいます。これに対し、不動産を単独で所有することを「単有」といいます。また、共有されている不動産を「共有不動産」といいます。
一般に不動産は単有か、できるだけ少ない人数で共有することが望ましいです。その理由は次のとおりです。
管理行為
共有不動産の管理行為をするには共有者の過半数の同意が必要です。本件では甲土地及び乙建物の管理行為をするにはAとB両方の同意が必要です。
管理行為は利用・改良行為とも呼ばれます。
管理行為の例は次のとおりです。
- 共有宅地の整地
- 共有建物の改装
民法
変更行為
共有不動産の変更行為をするには共有者全員の同意が必要です。本件では甲土地及び乙建物の変更行為をするにはAとB両方の同意が必要です。
変更行為の例は次のとおりです。
- 共有土地の宅地造成
- 共有建物の増改築
不動産の売却
共有不動産を売却する場合は共有者全員が売主となります。本件ではAとBが売買契約の売主です。
共有者の相続
共有者に相続が発生した場合には共有者の数が増えることがあります。
例えば、Aが死亡し、Aの配偶者Cと、Aの子Dが甲土地及び乙建物のA持分を相続すると、甲土地及び乙建物はそれぞれBCDの共有となり、不動産を共有することの不便さが増大します。
家族信託
そこで、AB間で次の内容の信託契約を締結します。
- Aは甲土地及び乙建物の自己の持分2分の1につき、Bと信託契約をする。
- 委託者及び受益者をAとする。
- 当初受託者をBとする。
- 信託法56条1項各号の事由により当初受託者の任務が終了したときは信託契約は終了する。
- 受託者は管理行為・変更行為ができる。
- 受託者は甲土地及び乙建物を売却できる。
- 受託者が甲土地及び乙建物を売却した場合は本件信託契約は終了する。
- 残余財産は受益者に帰属する。
以上のような信託契約を締結すると次のようになります。
賃料
Bが受け取った賃料の半分はAに帰属します。
管理行為・変更行為
Bは単独で甲土地及び乙建物の管理行為及び変更行為ができます。
不動産の売却
Bは単独で甲土地及び乙建物を売却できます。そして、売却代金の半分はAに帰属します。また、甲土地及び乙建物の売却により本件信託契約は終了します。
委託者・受益者の相続
Aが死亡した場合、Aの委託者及び受益者の地位はAの相続人CDへ移転します。しかし、信託契約は終了しません。よって、Aの死亡後、Bは従前Aに渡していた賃料をAの相続人CDへ渡します。
また、BはAの相続人CDの同意なく甲土地及び乙建物を売却することができます。そして、売却代金の半分はAの相続人CDに帰属します。また、甲土地及び乙建物の売却により信託契約は終了します。
受託者の相続
Bが死亡した場合、本件信託契約は終了します。よって、信託していた甲土地及び乙建物のA持分2分1はAに復帰します。なお、甲土地及び乙建物のB持分についてはBの相続人に移転します。
信託法
注意点
信頼関係
家族信託はその名のとおり、家族に信じて託すことです。そのため、家族信託は委託者と受託者の高度な信頼関係の上に成立します。
もっとも、信託契約締結後でも委託者と受益者の合意で信託を終了させることができます。本事例では受託者・受益者はいずれもAですので、AはBの同意なくAB間の信託を終了させることができます。但し、このようにBの同意なく信託契約を終了させても、不動産の名義をAに復帰させるにはBの協力か、Bへの訴訟提起が必要となりますので、家族信託にはリスクがあります。
信託法
受託者の負担
本事例では受託者Bは委託者Aの代わりに不動産の管理・処分をしますが、それによる恩恵は受益者Aが享受します。そのため、受託者は荒く申し上げると「委託者の不動産管理・処分のボランティア」のような役割を担います。
もっとも、本件のように不動産の共有者であるBを受託者、他の共有者であるAを委託者兼受益者とした家族信託では、Bは共有不動産のリフォームや売却についてAに相談することなく自己の判断で進めることができるという恩恵を手にします。
つまり、本事例で家族信託を利用しない場合にはBは賃料を回収し、共有不動産を事実上管理し、固定資産税の納付手続きをするにもかかわらず、重要な決定はAの同意が必要であるという中途半端な立場になります。
そうだとしてもAとBが兄弟姉妹ですのでBの負担はそこまで大きなものとはならないかもしれません。しかし、Aが死亡し、Aの甲土地及び乙建物の持分をAの相続人CDが相続すると、Bは甲土地及び乙建物をCDと共有する事態になり、Bはより中途半端な立場になるでしょう。