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家族信託

所有者が認知症の場合の不動産の売却方法

成年後見制度

不動産の所有者が認知症などにより判断能力を欠く状態で行った売買契約は無効です。そこで、このような状況で不動産を売却するには成年後見制度を利用しなければなりません。

制度概要

成年後見制度とは判断能力を欠く方の財産保護を目的とした制度です。成年後見制度では判断能力を欠く方に成年後見人が付きます。この成年後見人が付けられた、判断能力を欠く方を成年被後見人といいます。

成年後見人は成年被後見人の財産管理をしたり、成年被後見人の代わりに契約手続きをしたりします。

選任手続き

成年後見制度を利用するには家庭裁判所で成年後見開始審判の申立てをしなければなりません。

成年後見人の職務

成年後見制度は成年被後見人の財産を保護するための制度ですので、成年被後見人の財産につき投資的な運用は認められません。投資的な運用とは例えば成年被後見人の金銭で株式を購入することです。

これは不動産の売買契約においても同様で、成年後見人が自由に成年被後見人の不動産を売却することは成年後見の制度趣旨に反します。もっとも、成年後見人は成年被後見人の財産処分について包括的な代理権を有していますので、成年後見人は成年被後見人の財産を原則自由に処分できます。

居住用不動産

このように成年後見人は成年被後見人の財産を自由に処分できますが、成年被後見人の居住用の建物やその敷地(以下、「居住用不動産」といいます。)の扱いについては例外的に制限があります。

すなわち、成年後見人が成年被後見人の居住用不動産を売却するには家庭裁判所の許可が必要です。この許可の趣旨は成年被後見人の居住用不動産が成年被後見人の心身の拠り所であることに鑑み、安易な処分はすべきでないという価値観にあります。

そのため、成年被後見人の居住用不動産の売却の許可を得るには、成年被後見人の生活費の捻出のためなどの正当理由が必要です。例えば、成年被後見人に十分な預貯金がある場合に、居住用不動産が相場価格より高値で売却できるという理由での売却の許可は原則下りないと考えられます。

民法

(成年被後見人の居住用不動産の処分についての許可)
第八百五十九条の三 成年後見人は、成年被後見人に代わって、その居住の用に供する建物又はその敷地について、売却、賃貸、賃貸借の解除又は抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。

居住用不動産を売却の流れ

次に成年後見人が成年被後見人の居住用不動産を売却する流れを説明します。


  • 手順1

    成年後見開始審判の申立てをします。


  • 手順2

    成年後見開始の審判が下りると、成年後見人が選任されます。


  • 手順3

    成年後見人が家庭裁判所に居住用不動産売却の許可の申立てをします。


  • 手順4

    許可が下りた後、成年後見人と買主で不動産の売買契約を締結します。


  • 手順5

    売買契約締結後、売買契約の代金支払いと不動産の名義変更をします。


  • 手順6

    売却手続き完了後、成年後見人が家庭裁判所に売買契約に関する報告をします。


以上が成年後見人が成年被後見人の居住用不動産を売却する流れです。

登記の必要書類

最後に成年後見人が成年被後見人の居住用不動産を売却する場合の必要書類を説明します。

売買契約書

売買契約書は売買契約を証明する書類です。売買契約書には成年後見人と買主がそれぞれ署名・押印します。売買契約書の押印は認印で構いませんが、念のため両者実印を押印し、互いに自分の印鑑登録証明書を交付するとよいです。売買契約書は登記申請書の添付情報欄の「登記原因証明情報」にあたります。

権利証

権利証とは登記がされたことを証明する書類です。具体的には登記済証又は登記識別情報です。

ところで、所有権の登記が完了した際には、新所有者に対して登記済証又は登記識別情報が発行されています。そして、売買による所有権移転登記には売主が保有する登記済証又は登記識別情報が必要です。

しかし、成年被後見人の居住用不動産を売却する際には家庭裁判所の許可書を添付しますので、例外的に権利証の添付は不要です。

委任状

所有権移転登記は成年後見人と買主の両方が手続きに関与しなければなりません。但し、一方が他方に対して委任状を交付すれば受任者が単独で登記を申請できます。そして、委任状を提出した者は登記申請書に署名押印する必要はありません。

委任状は登記申請書の添付情報欄の「代理権限証明情報」にあたります。

印鑑登録証明書

成年後見人の印鑑登録証明書(3ヶ月以内)を添付します。成年後見人は登記申請書か委任状にその実印を押印します。

後見登記事項証明書

成年後見人の資格を証明する書類として、後見登記事項証明書(3ヶ月以内)を添付します。なお、成年後見人が弁護士や司法書士等の場合で、後見登記事項証明書の後見人の事務所と、後見人の印鑑登録証明書の住所が異なるときには弁護士登録証明書(弁護士会発行)や司法書士登録証明書(司法書士会発行)を添付します。

後見登記事項証明書は登記申請書の添付情報欄の「代理権限証明情報」にあたります。

許可書

居住用不動産売却の許可を証明する家庭裁判所の許可書を添付します。

この許可書は登記申請書の添付情報の「許可証明情報」にあたります。

住民票の写し

買主の住民票の写しを添付します。買主の印鑑登録証明書でも構いません。

固定資産税の課税明細書

所有権移転登記における登録免許税を算定するため、不動産の直近の固定資産税課税明細書を添付します。固定資産税の課税明細書には固定資産税の評価額が記載されてあり、これが課税価格のもとになります。なお、固定資産税の名寄帳や固定資産税の評価証明書でも構いません。

住宅用家屋証明書

住宅用家屋証明書とは建物の所有権移転移転登記に発生する登録免許税の減税を受けるための証明書です。売買する建物が減税対象であれば登記前に買主が建物所在地の市町村で取得します。

住宅用家屋証明書は登記申請書の添付情報欄の「減税証明書」にあたります。

不動産の登記事項証明書

不動産の登記事項証明書とは、不動産の登録内容を証明する書類です。不動産の登記事項証明書は法務局が発行するもので、登記事項証明書が取得できる法務局であれば、不動産の所在地を問わず、全国どこの法務局でも取得できます。そして、不動産の登記事項証明書を確認することで、所有権移転登記の対象である不動産を特定したり、住所氏名変更登記や相続登記の要否を確認したりできます。

また、法務局で登記事項証明書を取得する代わりにインターネットで登記情報を取得することもできます。登記情報とは登記事項証明書の内容をインターネット上で確認するものです。もっとも、登記情報の取得には登録手続きが必要ですので、所有権移転登記のためだけに登記情報を取得することはかえって手続きを煩雑にする可能性があります。

なお、不動産の登記事項証明書及び登記情報は登記申請書の添付書類ではありませんので法務局に提出はしませんが、登記申請書の作成に必要な書類です。

以上が成年後見人が成年被後見人の居住用不動産を売却する場合の必要書類です。

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