不動産を取得・保有・処分すると発生する税金と家族信託との関係を簡単に説明します。
登録免許税
概要
登録免許税は信託不動産について不動産登記などをする際に発生する税金です。登録免許税は不動産登記申請時に納付しますので、不動産登記を委任する司法書士が計算します。
税額
登録免許税額は不動産登記の内容によって異なります。詳しくはこちらの記事をご参照下さい。
不動産取得税
概要
不動産取得税とは不動産を取得した際に課される税金です。都道府県税事務所から送付される納税通知書を利用して金融機関の窓口で納付します。なお、相続によって不動産取得した場合には不動産取得税は課されません。
地方税法第73条の7(形式的な所有権の移転等に対する不動産取得税の非課税)
(形式的な所有権の移転等に対する不動産取得税の非課税)
第七十三条の七 道府県は、次に掲げる不動産の取得に対しては、不動産取得税を課することができない。
一 相続(包括遺贈及び被相続人から相続人に対してなされた遺贈を含む。)による不動産の取得
不動産信託でも同様に不動産を取得した者には不動産取得税が課されます。ここでは不動産取得税が非課税となる場合を説明します。
委託者から受託者
不動産が信託された場合、受託者は委託者から形式上信託不動産を取得します。しかし、この場合には受託者には不動産取得税は原則課されません(地方税法73条の7第3号)。
但し、この場合でも新築建物を未使用のままで信託した場合には例外的に不動産取得税は課されます(地方税法73条の7第3号括弧書)。
地方税法
(形式的な所有権の移転等に対する不動産取得税の非課税)
第七十三条の七 道府県は、次に掲げる不動産の取得に対しては、不動産取得税を課することができない。三 委託者から受託者に信託財産を移す場合における不動産の取得(当該信託財産の移転が第七十三条の二第二項本文の規定に該当する場合における不動産の取得を除く。)
四 信託の効力が生じた時から引き続き委託者のみが信託財産の元本の受益者である信託により受託者から当該受益者(次のいずれかに該当する者に限る。)に信託財産を移す場合における不動産の取得
イ 当該信託の効力が生じた時から引き続き委託者である者
ロ 当該信託の効力が生じた時における委託者から第一号に規定する相続をした者
ハ 当該信託の効力が生じた時における委託者が合併により消滅した場合における当該合併後存続する法人又は当該合併により設立された法人
ニ 当該信託の効力が生じた時における委託者が第二号に規定する政令で定める分割をした場合における当該分割により設立された法人又は当該分割により事業を承継した法人
受託者から受益者
第73条の7第4号は、受益者が受託者から不動産を取得した場合に非課税となるときを規定しています。
この規定は読みづらい規定ですが、平たく言えば、信託成立時から委託者兼受益者である者が受託者から不動産を取得した場合には不動産取得税は課されません(地方税法73条の7第4号イ)。
また、信託成立時から委託者兼受益者であった者の相続人が受託者から不動産を取得した場合には不動産取得税は課されません(地方税法73条の7第4号ロ)。
固定資産税
概要
固定資産税は、固定資産の所有者に課されます。市町村から送付される納税通知書を利用して金融機関の窓口で納付します。
そして、「固定資産の所有者」とは不動産の登記記録に所有者として登記されている者です。また、所有者として登記されている者が死亡している場合にはその相続人が固定資産の所有者です。
地方税法
(固定資産税の納税義務者等)
第三百四十三条 固定資産税は、固定資産の所有者(質権又は百年より永い存続期間の定めのある地上権の目的である土地については、その質権者又は地上権者とする。以下固定資産税について同様とする。)に課する。
2 前項の所有者とは、土地又は家屋については、登記簿又は土地補充課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に所有者(区分所有に係る家屋については、当該家屋に係る建物の区分所有等に関する法律第二条第二項の区分所有者とする。以下固定資産税について同様とする。)として登記又は登録がされている者をいう。この場合において、所有者として登記又は登録がされている個人が賦課期日前に死亡しているとき、若しくは所有者として登記又は登録がされている法人が同日前に消滅しているとき、又は所有者として登記されている第三百四十八条第一項の者が同日前に所有者でなくなつているときは、同日において当該土地又は家屋を現に所有している者をいうものとする。
信託
不動産を信託した場合には委託者から受託者への所有権移転登記をしますので、不動産の登記記録上の所有者は受託者です。よって、固定資産税の納税義務者は受託者です。
もっとも、信託契約において固定資産税の負担者を受益者にすることもできます。この場合には受託者は固定資産税の納付手続きをした上で、固定資産税額の金銭を受益者から受け取ります。
贈与税
概要
贈与税とは個人から個人への財産贈与があった場合に受贈者(財産をもらった人)に課される税金です。受贈者は贈与を受けた年の翌年に確定申告をします。
信託
個人が相続や贈与などにより受益権を取得した場合には、その個人は受益権の取得をしたときに受益権の目的となっている信託財産を取得したものとして相続税や贈与税が課税されます。また、取得した受益権が持分であるときは個人は受益権の目的となっている信託財産につき受益権と同じ持分をしたものとして課税されます。
つまり、信託においては受益権の移動が基準となり相続税・贈与税が課されます。
例えば、Aを委託者・受益者、Bを受託者として、AがBに財産を信託した場合、受益権は以前Aが有しており、受益権に移動はないのでABいずれにも贈与税は課されません。
相続税
概要
相続税とは遺産が一定の額を超えた場合に相続人に課される税金です。相続税が課される相続人は相続税の申告をします。
信託
個人が相続や贈与などにより受益権を取得した場合には、その個人は受益権の取得をしたときに受益権の目的となっている信託財産を取得したものとして相続税や贈与税が課税されます。また、取得した受益権が持分であるときは個人は受益権の目的となっている信託財産につき受益権と同じ持分をしたものとして課税されます。
信託においては受益権の移動が基準となり相続税・贈与税が課されます。
例えば、Aを委託者・受益者、Bを受託者として、AがBに財産を信託した場合、Bが死亡しBの相続人Cが受託者の地位を相続しても受益権は以前Aが有しており、受益権に移動はないのでCに相続税は課されません。
これに対し、Aが死亡し、Aの相続人Dが委託者・受益者の地位を相続した場合、受益権に移動があるのでAの相続税の計算においては受益権を遺産に含めて計算します。よって、Dに相続税が発生することがあります。
所得税
概要
所得税は所得が発生した場合に課される税金です。もっとも、給与所得者は源泉徴収され、雇用者が納付しますので、納税者が自ら申告・納付することは基本的にありません。
信託
家族信託においては受益者に所得税が課されることがあります。例えば、収益物件を信託した場合にはその収益は受益者に入ります。よって、この収益によって所得が発生すれば受益者に所得税が課されることがあります。
また、受益者が受益権を譲渡し、所得が発生した場合には受益権を譲渡した者に譲渡所得税が課されることがあります。
なお、自益信託、すなわち委託者・受益者が同じ信託において、不動産を信託しただけでは不動産の譲渡所得税は課されません。例えば、Aを委託者・受益者、Bを受託者としてAの不動産をBに信託した場合、AはBに受益権を譲渡していませんので、Aに不動産の譲渡所得税は課されません。