総論
強制執行
養育費が支払われない場合、裁判所を通して強制的に養育費を支払わせることができます。
これを「強制執行」と言います。
養育費を支払うべき者(以下、「債務者」)が、会社に勤めていれば、その給料を差し押さえることができます。
「差し押さえる」とは、債務者の勤め先(以下、「給与支払者」)から、債務者を通さず直接に給料の支払いを受けることです。
空振り
「養育費の支払いを受ける権利がある」ことと、「実際に養育費の支払いを受ける」ことは別次元の話です。
すなわち、債務者が無職であったり、財産を持っていなかったりすれば、強制執行をしても、養育費の支払いがされる可能性は低いです。
これを強制執行が「空振りに終わる」と表現します。
また、養育費を滞納するの者は、他の債務(税金等)も滞納している可能性があります。その場合は他の債権者と競合します。
よって、強制執行をする場合は債務者の勤務先や財産の有無を把握してから行う必要があります。
将来の養育費
養育費は将来に渡って支払われるものです。
そこで、未だ約束の期日が経過していない将来の養育費を、滞納済みの養育費と併せて強制執行手続きをすることができます(民事執行法151条の2第1項)。
もっとも、将来分の養育費は、将来の期限が経過した後に発生した給料からしか取り立てることができません(同第2項)。
方法
強制執行は裁判所で行う手続きです。
強制執行は養育費支払いを合意した書類で手続きが異なります。
「養育費支払いを合意した書類」とは下記のものが考えられます。
- 調停調書
- 公正証書
- 判決
- 審判書
書類によって、必要な手続きが異なります。
調停調書の場合
流れ
債務者の給料を差し押さえる流れは以下の通りです。
step.1
調停をした裁判所に送達証明申請を行う。
step.2
債務者(養育費を払わない者)の住所地の裁判所に債権差押命令の申立てを行う。
step.3
裁判所が債務者及び給与支払者(債務者の勤め先)に対し、書類を送付する。
step.4
給与支払者から直接給料の支払いを受ける。
step.5
裁判所に報告する。
送達証明書
送達とは調停調書を当事者に送付することです。
養育費の強制執行においては債務者に対し、調停調書が送達されていることが必要です。
送達がされると、裁判所でその記録が保管されます。
よって、送達が完了していることを証明する書類、すなわち送達証明書を裁判所に発行してもらいます。
執行文
一般に強制執行を行う場合は執行文が必要です。
執行文とは、強制執行を行う際に裁判所にもらうお墨付きです。
もっとも、調停調書で養育費の強制執行をする場合、執行文は不要です。
但し、調停調書で養育費と共に慰謝料等の支払いを求める場合は執行文が必要です。
調停調書による強制執行の場合に、執行文が必要なときは調停をした裁判所で執行文を発行してもらいます。
具体的には、調停調書の文末に、「債権者は債務者に対し、この債務名義により強制執行することができる。」の文言を追記してもらいます。
必要書類
- 調停調書正本
- 送達証明書
- 執行文(必要な場合のみ)
- 戸籍謄本
- 住民票
- 給与支払者が法人の場合、その法人の登記簿謄本
ココに注意
調停調書正本には、調停調書の末尾に、「これは正本である。」と記載されてあります。
これに対し、「これは謄本である。」と記載されてあれば、それは調停著書謄本です。そして、謄本では強制執行はできません。
この場合は調停を行った裁判所で正本を発行してもらいます。
費用
- 収入印紙 4,000円
- 切手 3,000円分程度
- 専門科へ依頼の場合はその報酬
- 執行文及び送達証明書発行の手数料 数千円
公正証書の場合
流れ
債務者の給料を差し押さえる流れは以下の通りです。
step.1
公正証書を作成した公証役場に対し、送達証明申請を行う。
step.2
公正証書を作成した公証役場に対し、執行文の付与の申立てを行う。
step.3
債務者(養育費を払わない者)の住所地の裁判所に債権差押命令申立てを行う。
step.4
裁判所が債務者及び給与支払者(債務者の勤め先)に対し、書類を送付する。
step.5
給与支払者から直接給料の支払いを受ける。
step.6
裁判所に報告する。
公正証書
公正証書とは公証人が作成した文書です。
公証人は公証役場にいる役人です。公証役場は公的な機関ですので、そこで作成された書類は証拠力の強い書類です。
もっとも、全ての公正証書で強制執行ができる訳ではありません。
強制執行ができる公正証書は、「執行受諾文言」がある公正証書に限られます。
「執行受諾文言」とは、「債務者が公正証書正本に記載された債務を履行しない場合は、直ちに強制執行に服する」等の文言を指します。
送達証明書
送達とは公正証書を当事者に送付することです。
養育費の強制執行においては債務者に対し、公正証書が送達されていることが必要です。
送達されると、公証役場でその記録が保管されます。
よって、送達が完了していることを証明する書類、すなわち送達証明書を、公正証書を作成した公証役場に発行してもらいます。
執行文
一般に強制執行を行う場合は執行文が必要です。
執行文とは、強制執行を行う際の公証人のお墨付きです。
公正証書による強制執行の場合に、執行文が必要なときは、公正証書を作成した公証役場で執行文を発行してもらいます。
具体的には、公正証書の文末に、「債権者は、債務者に対し、この公正証書によって強制執行をすることができる。」の文言を追記してもらいます。
必要書類
- 公正証書正本
- 送達証明書
- 執行文
- 戸籍謄本
- 住民票
- 給与支払者が法人の場合、その法人の登記簿謄本
ココに注意
公正証書正本には、公正証書の末尾に、「これは正本である。」と記載されてあります。
これに対し、「これは謄本である。」と記載されてあれば、それは公正証書謄本です。そして、謄本では強制執行はできません。
この場合は公正証書を作成した公証役場で正本を発行してもらいます。
費用
- 収入印紙 4,000円
- 切手 3,000円分程度
- 専門科へ依頼の場合はその報酬
- 執行文及び送達証明書発行の手数料 数千円
判決の場合
流れ
債務者の給料を差し押さえる流れは以下の通りです。
step.1
判決をした裁判所に対し、送達証明申請を行う。
step.2
判決をした裁判所に対し、執行文の付与の申立てを行う。
step.3
債務者(養育費を払わない者)の住所地の裁判所に債権差押命令申立てを行う。
step.4
裁判所が債務者及び給与支払者(債務者の勤め先)に対し、書類を送付する。
step.5
給与支払者から直接給料の支払いを受ける。
step.6
裁判所に報告する。
送達証明書
送達とは判決を当事者に送付することです。
養育費の強制執行においては、債務者に対し判決が送達されていることが必要です。
送達されると、裁判所でその記録が保管されます。
よって、送達が完了していることを証明する書類、すなわち送達証明書を裁判所に発行してもらいます。
執行文
強制執行を行う場合は執行文が必要です。
執行文とは、強制執行を行う際の判所のお墨付きです。
判決で強制執行する場合は執行文が必要です。
そこで、判決をした裁判所で執行文を発行してもらいます。
具体的には、判決の文末に、「債権者は債務者に対し、この債務名義により強制執行することができる。」の文言を追記してもらいます。
必要書類
-
- 判決正本
- 送達証明書
- 執行文
- 戸籍謄本
- 住民票
- 給与支払者が法人の場合、その法人の登記簿謄本
ココに注意
判決正本には、その末尾に、「これは正本である。」と記載されてあります。
これに対し、「これは謄本である。」と記載されてあれば、それは判決謄本です。そして、謄本では強制執行はできません。
この場合は判決をした裁判所で正本を発行してもらいます。
費用
- 収入印紙 4,000円
- 切手 3,000円分程度
- 専門科へ依頼の場合はその報酬
- 執行文及び送達証明書発行の手数料 数千円
審判書の場合
流れ
債務者の給料を差し押さえる流れは以下の通りです。
step.1
審判をした家庭裁判所に対し、送達証明申請を行う。
step.2
審判をした家庭裁判所に対し、確定証明申請を行う。
step.3
債務者(養育費を払わない者)の住所地の裁判所に債権差押命令申立てを行う。
step.4
裁判所が債務者及び給与支払者(債務者の勤め先)に対し、書類を送付する。
step.5
給与支払者から直接給料の支払いを受ける。
step.6
裁判所に報告する。
送達証明書
送達とは審判書を当事者に送付することです。
養育費の強制執行においては債務者に対し、審判書が送達されていることが必要です。
送達されると、家庭裁判所でその記録が保管されます。
よって、送達が完了していることを証明する書類、すなわち送達証明書を家庭裁判所に発行してもらいます。
確定証明書
ところで、審判に対しては不服を申し立てることができます(家事事件手続法86条1項)。
そして、この不服申し立ての期間は2週間です。不服申し立てがされず、2週間が経過すると審判は確定します。
また、審判書をもって強制執行をするには、審判が確定していなければなりません。
そこで、審判をした家庭裁判所で確定証明書を発行してもらいます。
必要書類
-
- 審判書正本
- 送達証明書
- 確定証明書
- 戸籍謄本
- 住民票
- 給与支払者が法人の場合、その法人の登記簿謄本
ココに注意
審判書正本には、その末尾に、「これは正本である。」と記載されてあります。
これに対し、「これは謄本である。」と記載されてあれば、それは審判書謄本です。そして、謄本では強制執行はできません。
この場合は審判をした家庭裁判所で正本を発行してもらいます。
費用
- 収入印紙 4,000円
- 切手 3,000円分程度
- 専門科へ依頼の場合はその報酬
- 送達証明書及び確定証明書の発行手数料 数千円