ここでの養子縁組は普通養子縁組であることを前提とします。
代襲相続
代襲相続とは、被相続人の子や、被相続人の兄弟姉妹に代わって、被相続人の子の子や、被相続人の兄弟姉妹の子が、相続することです。
例えば、Aが死亡し、Aの実子BがAより先に死亡しているため、Bの実子CがAを相続する場合です。Cは本来Aの相続人になるはずであったBに代わって、Aの相続人になっています。
この場合、CはAからみて、自分の子Bの子にあたりますが、被相続人の子の子が必ず代襲相続するわけではありません。
例をかえて、甲が死亡し、甲の養子乙が甲より先に死亡しており、乙の実子丙がいる場合を検討します。
この場合、丙の出生が甲乙の養子縁組の後であれば丙は代襲相続により甲の相続人になります。
他方、丙の出生が甲乙の養子縁組の前であれば丙は代襲相続により甲の相続人になりません。
なぜなら、この場合代襲相続するのは被相続人の直系卑属であるところ、前者では丙は甲の直系卑属であるのに対し、後者では丙は甲の直系卑属でないからです。
次に直系卑属について説明します。
直系卑属
直系卑属の「直系」とは、祖先から下の代まで縦に繋がる血縁関係です。例えば、祖父母、父母、子、孫が直系です。
また、直系卑属の「卑属」とは、自分より下の世代の血族です。そして、血族とは血の繋がりのある者同士です。例えば、自分の子や甥・姪は、自分からみて卑属です。
つまり、自分の子や孫は、自分からみて「直系卑属」です。
なお、粗い言い方をしますと「直系卑属である」ことは「親族である」ことを意味します。
繰り返しになりますが、丙の出生が甲乙の養子縁組の後であれば丙は甲の直系卑属であり、甲丙は親族です。
他方、丙の出生が甲乙の養子縁組の前であれば丙は甲の直系卑属ではなく、甲丙は親族ではありません。
丙の出生と、甲乙の養子縁組の時期によってこのように結論が異なるのは養子縁組の効果に起因します。
次に養子縁組について説明します。
養子縁組
養子縁組とは法律上の親子関係を生じさせる手続きです。
養子縁組によって、養子と養親及びその血族との間には親族関係が生じます。また、これは同時に、養子縁組によって、養子の血族と、養親及びその血族との間に親族関係は生じないことを意味します。
すなわち、養親甲と養子乙の養子縁組によって、乙は甲の直系卑属になり、甲乙は親族となります。
また、甲乙の養子縁組後に、乙の子丙が出生すると、丙も甲の直系卑属になり、甲丙は親族となります。
他方、甲乙の養子縁組前に、乙の子丙が出生していれば、甲乙の養子縁組によって丙は甲の直系卑属にはならず、甲丙は親族になりません。
以上を簡単にまとめると次のようになります。
- 被相続人の子の子が被相続人の直系卑属であれば、代襲相続し得る。
- (粗い言い方をすると)「直系卑属である」ことは「親族である」ことを意味する。
- 養子縁組によって養親と養子は親族となるが、養親と養子の子が親族になるとは限らない。
以上が直系卑属にかかる代襲相続の説明です。
第三順位の相続人
最後に第三順位の相続人が代襲相続する場合について説明します。第三順位の相続人の例は被相続人の兄弟姉妹です。
既述のとおり、被相続人の兄弟姉妹に代わって、被相続人の兄弟姉妹の子が代襲相続することがあります。
例えば、Xが死亡し、Xの弟YがXより先に死亡しているため、Yの実子Zが第三順位の相続人としてXの相続人となる場合です。Zは本来Xの相続人になるはずであったYに代わって、Xの相続人になっています。
この場合、ZはXからみて、弟Yの子にあたりますが、被相続人の兄弟姉妹の子が必ず代襲相続するわけではありません。
例をかえて、Pが死亡し、Pの実親と養子縁組をしている養子QがPより先に死亡しており、Qの実子Rがいる場合を検討します。
この場合、Rの出生がPの実親と養子Qの養子縁組の後であれば、Rは代襲相続によりPの相続人となります。
他方、Rの出生がPの実親とQの養子縁組の前であれば、Rは代襲相続によりPの相続人とはなりません。
なぜなら、この場合代襲相続するのは被相続人の傍系卑属であるところ、前者ではRはPの傍系卑属であるのに対し、後者ではRはPの傍系卑属ではないからです。
次に傍系卑属について説明します。
傍系卑属
傍系卑属の「傍系」とは、同一の祖先から枝分かれした血縁関係です。例えば、自分の兄弟姉妹は、自分からみて傍系です。
また、既述のとおり、「卑属」とは、自分より下の世代の血族です。
つまり、自分の甥姪は、自分からみて「傍系卑属」です。
なお、粗い言い方をしますと「傍系卑属である」ことは「親族である」ことを意味します。
繰り返しになりますが、Rの出生がPの実親と養子Qの養子縁組の後であればRはPの傍系卑属であり、PRは親族です。
他方、Rの出生がPの実親と養子Qの養子縁組前であればRはPの傍系卑属ではなく、PRは親族ではありません。
Rの出生と、Pの実親と養子Qの養子縁組の時期によって結論が異なるのは先ほどと同様に養子縁組の効果に起因します。
養子縁組
既述のとおり、養子縁組によって、養子と養親及びその血族との間には親族関係が生じます。また、これは同時に、養子縁組によって、養子の血族と、養親及びその血族との間に親族関係は生じないことを意味します。
すなわち、Pの実親と、養子Qの養子縁組によって、PQは兄弟姉妹になり、PQは親族となります。
そして、この養子縁組後に、Qの子Rが出生しますと、RはPの傍系卑属になり、PRは親族となります。
他方、この養子縁組前に、Qの子Rが出生していれば、この養子縁組によってRはPの傍系卑属にはならず、PRは親族になりません。
以上を簡単にまとめると次のようになります。
- 被相続人の兄弟姉妹の子が被相続人の傍系卑属であれば、代襲相続し得る。
- (粗い言い方をすると)「傍系卑属である」ことは「親族である」ことを意味する。
- 養子縁組によって養親の実子と養子は親族となるが、養親の実子と養子の子が親族になるとは限らない。
(縁組による親族関係の発生)
第七百二十七条 養子と養親及びその血族との間においては、養子縁組の日から、血族間におけるのと同一の親族関係を生ずる。
(子及びその代襲者等の相続権)
第八百八十七条 被相続人の子は、相続人となる。
2 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
3 前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合について準用する。(直系尊属及び兄弟姉妹の相続権)
第八百八十九条 次に掲げる者は、第八百八十七条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
一 被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。
二 被相続人の兄弟姉妹
2 第八百八十七条第二項の規定は、前項第二号の場合について準用する。