照会の意義
相続放棄申述の有無の照会(以下、「照会」といいます。)とは相続人が相続放棄をしたか否かを管轄家庭裁判所で確認する手続きです。
照会は誰でもできるわけではなく、照会ができるのは共同相続人や、相続放棄受理の事実を確認する利益を有している者に限られます。なお、この利益を有している者をここでは便宜上「利害関係者」といいます。
「利害関係者」とは例えば被相続人に債権を有していた者(以下、「債権者」といいます。)です。
相続放棄
そもそも、相続放棄の申述が受理された場合、家庭裁判所は申述人に対してのみその旨の通知をします。すなわち、共同相続人や利害関係者は申述人から知らされない限り相続放棄申述受理の事実を知り得ません。
しかし、相続放棄がなされたか否かは共同相続人や利害関係者にとって重要な事実ですので、これらの者は照会をすることが認められています。
次に、共同相続人や利害関係者の照会について具体的に説明します。
共同相続人
まず、共同相続人についてです。
共同相続人が他の共同相続人について照会をする場合とは、例えば共同相続人同士が疎遠の場合です。
ところで、遺産整理手続きにおいては原則相続人全員の関与が必要ですので、共同相続人は他の共同相続人の相続放棄の有無を知る必要があります。もっとも、この場合は共同相続人が互いに相続放棄申述受理通知書を提示すれば足り、照会をするまでもありません。なお、相続放棄申述受理通知書とは、文字通り相続放棄の申述が受理されたことを家庭裁判所が通知する書類で、家庭裁判所から申述人へ交付されるものです。
共同相続人が疎遠の場合には互いの連絡先すら知らないことがありますので、相続放棄申述受理通知書を互いに確認することは困難です。よって、このような場合には照会をする実益があります。
債権者
次に債権者についてです。
被相続人が債権者に負っていた債務は相続人へ承継されます。よって、債権者は債権を回収するために相続人の相続放棄の有無を知る必要があります。
もっとも、この場合も債権者は相続放棄をした者から相続放棄申述受理通知書のコピーを受領すれば足り、照会をするまでもありません。
しかし、相続人からの反応がない場合や、相続人が行方不明な場合には照会をする実益があります。
後順位の相続人の照会
このように共同相続人や債権者には照会をする権限がありますが、多くの場合相続放棄申述受理通知書があれば足ります。よって、照会まですることは少ないです。
というのも、共同相続人の一人が相続放棄をする場合は大抵他の共同相続人も相続放棄をします。そして、自分が相続放棄した場合には他の相続人が相続放棄したか否かについて基本的に関心はありません。また、関心がある場合でも、他の共同相続人から相続放棄申述受理通知書の提示を待てばよく、急いで照会をかける必要はありません。
また、債権者がいる場合、相続人は相続した債務を免れるために相続放棄を証明するべき立場にあります。そのため、債権者は大抵相続人から速やかに相続放棄申述受理通知書のコピーを受け取ることができます。よって、債権者は急いで照会をかける必要はありません。
後順位の推定相続人
これに対し、後順位の推定相続人は先順位の相続人全員が相続放棄をしたか否か、相続放棄をした場合には相続放棄申述受理日について強い関心を有します。なお、第三順位の推定相続人は「共同相続人」としての立場ではなく、「利害関係者」の立場で照会すると考えられます。
ところで先順位の相続人全員が相続放棄した場合には相続人の地位は次順位の推定相続人に移行します。例えば第一順位の相続人たる被相続人の子全員が相続放棄し、第二順位の相続人たる被相続人の父母等が被相続人死亡以前に死亡していた場合には第三順位の相続人たる被相続人の兄弟姉妹が相続人となります。
そして、この場合は大概第三順位の相続人も相続放棄をすることになります。ここで、第三順位の相続人が相続放棄をする場合、第一順位の相続人の相続放棄受理日から三ヶ月以内に相続放棄を申述すると相続放棄の手間が大幅に削減されます。
そのため、第三順位の推定相続人は先順位の相続人が相続放棄したのか、相続放棄をした場合には相続放棄受理日に強い関心を有します。
戸籍取得
また、第三順位の相続人が相続放棄をする場合、第一順位及び第二順位の相続人が相続放棄する場合に比べて取得する戸籍の範囲が広いです。すなわち、第三順位の相続人は被相続人の戸籍に加えて、被相続人の父母の戸籍も取得しなければなりません。
加えて、第三順位の相続人は第一順位及び第二順位の相続人と異なり、被相続人の戸籍を原則取得できません。すなわち、第三順位の相続人が被相続人の戸籍を取得するには「相続放棄を申述する」という正当理由が必要です。
これが何を意味するかというと、第三順位の推定相続人は先順位の相続人全員の相続放棄の申述が受理されるまでは相続人の地位を有しないため、「相続放棄を申述する」という理由で被相続人の戸籍を取得できません。
そして、第三順位の推定相続人は先順者全員の相続放棄受理後三ヶ月以内に相続放棄をすればその手間が大幅に削減されるので、先順位の相続人の相続放棄後速やかに相続放棄の申述をしたいと考えます。よって先順位の相続人の相続放棄申述の有無及びその受理日を一刻も早く確認したいのです。
このような理由から、第三順位の推定相続人は先順位の相続人について照会をかける動機が存在します。