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相続

相続放棄後の不動産の管理責任

不動産の管理責任

はじめに不動産の管理責任について説明します。

不動産の所有者

不動産の所有者は不動産を自由に使用・収益・処分する権利を有する反面、不動産を管理する義務を負います。この不動産を管理する義務を「不動産の管理責任」といいます。

例えば屋根瓦が落ちて通行人にあたらないように屋根を修繕したり、自己の土地上の木から発生した落ち葉を掃除したりするのが不動産の管理責任です。

相続放棄の効果

不動産の所有者はこのような不動産の管理責任を有していますが、この管理責任は相続の対象です。よって、被相続人が負っていた不動産の管理責任を相続したくない場合は被相続人の死亡後に相続放棄をします。

そして、相続放棄の効果は被相続人の死亡時に遡って生じますので、相続放棄をした者は被相続人の死亡時から不動産の管理責任を負いません。

しかし、相続放棄をした者であっても例外的に不動産の管理責任を負う場合があります。この相続放棄をした者が例外的に負う不動産の管理責任をここでは便宜上「相続放棄後の管理責任」と呼びます。

民法

(相続の放棄の効力)
第九百三十九条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。

相続放棄後の管理責任

次に相続放棄後の管理責任が発生する要件やその中身を説明します。相続放棄後の管理責任を定めた規定は民法940条1項です。なお、同項は遺産が不動産の場合だけでなく、自動車や家具などの動産の場合も適用されます。

民法

(相続の放棄をした者による管理)
第九百四十条 相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。
2 第六百四十五条、第六百四十六条並びに第六百五十条第一項及び第二項の規定は、前項の場合について準用する。

民法940条1項を具体的に説明します。

現に占有

まず相続放棄後の管理責任の対象は、相続放棄をした者が相続放棄時に現に占有していた不動産です。

そして、「現に占有」とは不動産に住んでいたり、不動産を他人に貸していたりした場合を意味します。つまり、被相続人と疎遠であったなどの理由で、相続放棄時に被相続人の不動産に関与していなかった者は相続放棄後の管理責任を負いません。

保存

次に相続放棄後の管理責任の中身を説明します。

「相続放棄後の管理責任を負う」ことは、民法940条1項の「財産を保存しなければならない」ことを指します。そこでこの「保存」の中身が問題となります。「保存」の中身をここでは便宜上「保存義務」と呼びます。保存義務については、次の考え方があります。

  1. 不動産を滅失・損傷してはならない義務
  2. 上記1に加えて、不動産の現状を維持するために必要な行為をする義務

1につき、「不動産を滅失・損傷」する行為とは例えば価値ある建物を解体することです。

2につき、「不動産の現状を維持するために必要な行為」とは例えば雨漏りをしている建物の屋根を修理することです。

保存義務の具体的内容は今後の実務の運用を待つところです。もっとも、保存義務を定めるにあたっては不動産管理の必要性やこれに伴う費用等を考慮して定める必要がありますので、保存義務の中身はケースバイケースになると思われます。

自己の財産におけるのと同一の注意

また、保存義務は「自己の財産におけるのと同一の注意」をもって行います。

ところで、「自己の財産におけるのと同一の注意」と対比されるものとして「善良な管理者の注意」があります。

「善良な管理者の注意」は「自己の財産におけるのと同一の注意」よりも高度な注意義務です。例えば他人の建物を借りた者は、その建物を「善良な管理者の注意」をもって使用しなければなりません。

相続放棄後の管理責任においては「善良な管理者の注意」をもつことまでは要求されていません。

管理する期間

そして相続放棄後の管理責任は他の相続人に不動産を引き渡すまで継続します。

以上が相続放棄後の管理責任が発生する要件やその中身です。

相続財産法人

最後に相続人全員が相続放棄した場合の相続放棄後の管理責任の行方を説明します。

どういうことかいいますと、相続放棄後の管理責任を負うべき者が相続放棄をした場合、相続放棄後の管理責任は不動産の引き渡しを受けた他の相続人へ移転します移転することがあります。

そのため、相続人全員が相続放棄した場合の相続放棄後の管理責任の行方に疑問を持たれると思います。この場合、相続放棄後の管理責任は相続財産法人へ移転します。

ところで、相続人全員が相続放棄をした場合、被相続人の不動産は他の遺産と併せて法人化されます。そして、この法人化された遺産一体を「相続財産法人」といいます。もっとも、相続財産法人は概念上のものですので、実際には家庭裁判所で選任された相続財産の清算人が相続財産法人を管理・清算します。

よって、相続人全員が相続放棄をしたケースで、最後に相続放棄後の管理責任を負う者がこの責任を免れるには家庭裁判所で相続財産の清算人の選任を申立てなければなりません。

民法

(相続財産法人の成立)
第九百五十一条 相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。

(相続財産の清算人の選任)
第九百五十二条 前条の場合には、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の清算人を選任しなければならない。
2 前項の規定により相続財産の清算人を選任したときは、家庭裁判所は、遅滞なく、その旨及び相続人があるならば一定の期間内にその権利を主張すべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、六箇月を下ることができない。

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