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相続

被相続人の同一性の証明の手順

概要

「被相続人の同一性の証明」とは、被相続人から相続人への所有権移転登記(以下、「相続登記」といいます。)を申請する際に行う手順の一つです。

相続登記を申請する場合、被相続人が相続登記を申請した不動産(以下、「不動産」といいます。)の所有者(共有者)であったことを証明しなければなりません。

例えば、不動産の登記記録上の被相続人の住所・氏名と、被相続人の死亡時の戸籍の附票謄本(本籍地入)の被相続人の住所・氏名が一致していれば「被相続人の同一性の証明」は完了します。

そして、「被相続人の同一性の証明」が完了した場合は相続登記の添付書類として証明書類を提出します。

なお、不動産の登記記録上の被相続人の氏名は大抵被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本記載の被相続人の氏名と一致します。

もっとも、被相続人の氏名が複雑な漢字を使用している場合や、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本の一部を取得できない場合などにはこれらが一致しないことがあります。このような場合には後述のstep4及びstep6を踏みます。

「被相続人の同一性の証明」が多く問題となるのは不動産の登記記録上の被相続人の住所が、戸籍の附票や住民票の除票の被相続人の住所と一致しない場合です。

そこで「被相続人の同一性の証明」の手順を説明します。

手順

ここでは不動産の登記記録上の被相続人の住所についての「被相続人の同一性の証明」の手順を説明します。

なお、ここで説明する手順は記事投稿者が実務上最も効率がよいと考える手順です。また、遺言公正証書を使用して相続登記を申請する場合、手順は若干異なります。

step
1
戸籍の附票謄本

相続登記においては被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本又は被相続人の死亡記載のある戸籍謄本を取得します。

そこで、これらを取得する際に併せて被相続人の死亡時の戸籍の附票謄本(本籍地入)を取得します。

そして、この戸籍の附票謄本(本籍地入)記載の被相続人の住所と、不動産の登記記録上の被相続人の住所が一致すれば「被相続人の同一性の証明」をするための書類収集は終了です。

なお、「被相続人の同一性の証明」をするためだけならば、戸籍の附票は被相続人の抄本でも構いません。

しかし、被相続人の死亡記載のある戸籍謄本内に相続人がいる場合、被相続人の死亡時の戸籍の附票謄本は、同時にその相続人の住所を証明する書類です。そのため、原則的には戸籍の附票は謄本を取得します。

 

step
2
改製原戸籍の附票

step1で終了しない場合、被相続人の改製原戸籍の附票謄本を取得します。改製原戸籍の附票とは、改製(コンピュータ化)前の戸籍の附票です。

そして、この改製原戸籍の附票謄本記載の被相続人の住所と、不動産の登記記録上の被相続人の住所が一致すれば「被相続人の同一性の証明」をするための書類収集は終了です。

なお、改製原戸籍の附票が廃棄されており、取得できない場合には改製原戸籍の附票が廃棄済みであることの証明書を取得します。

 

step
3
住民票の除票

step2で終了しない場合、被相続人の住民票の除票(本籍地及び前住所入)を取得します。

そして、この住民票の除票(本籍地及び前住所入)記載の被相続人の住所と、不動産の登記記録上の被相続人の住所が一致すれば「被相続人の同一性の証明」をするための書類収集は終了です。

なお、住民票の除票が廃棄されており、取得できない場合には住民票の除票が廃棄済みであることの証明書を取得します。

ところで、住民票の除票はstep1ないしstep2の時点で請求しても構いません。

しかし、被相続人の本籍と、被相続人の住所が、戸籍及び除票の請求先である市町村をまたぐ場合、被相続人の戸籍謄本の請求先で、被相続人の住民票の除票を請求することはできません。

これに対し、戸籍の附票は戸籍の請求先で請求することができます。このような理由から住民票の除票の請求はstep3に置いています。

 

step
4
登記済証

step3で終了しない場合、不動産の登記済証を探します。登記済証とはいわゆる権利証のことで、「登記済」の赤いハンコが押してある書類です。

そして、相続登記を申請した不動産について、被相続人名義に登記された際に発行された登記済証があれば「被相続人の同一性の証明」をするための書類収集は終了です。

具体的には登記済証の不動産の所在事項、受付年月日及び受付番号と、不動産の登記記録の不動産の所在事項、受付年月日及び受付番号が一致するかを確認します。

また、相続登記の申請に添付する登記済証はコピーを取った上で、原本と一緒に提出します。

 

step
5
本籍

step4で終了しない場合、被相続人の出生から死亡までのいずれかの本籍と、不動産の登記記録上の被相続人の住所が一致するかを確認します。

なお、登記先例(法務省⺠⼆第175号平成29年3⽉23⽇)においては被相続人の登記記録上の住所と、被相続人の戸籍謄本の本籍が一致すれば「被相続人の同一性の証明」は終了するとされています。

これは昭和27年7月1日住民登録法施行により戸籍と別に住民票が整備されるまでは、戸籍のある場所に居住する者については、戸籍上の本籍は住所としての法的証明の機能を有していたからです。(戸籍のある場所に居住しない者については寄留地において寄留簿が作られ、これに登録されました。)

しかし、本籍と住所が異なることが多い今日の実情を考慮しますと、昭和23年式戸籍編成以降に死亡した被相続人について、この手順のみで「被相続人の同一性の証明」がなされたと判断するのは早計でしょう。

故に、この場合にはstep5で終わるのではなく、step6-1及びstep6-2の全部又は一部を踏むことが望ましいと考えます。

 

step
6-1
納税証明書

step5で終了しない場合、次の書類の全部または一部を取得します。

  • 不動産の固定資産税の納税証明書
  • 不動産の評価証明書
  • 不動産の名寄帳

そして、次の情報が整合しているかを確認します。

  1. 不動産の登記記録上の情報
  2. 不動産の固定資産税の納税証明書、評価証明書、名寄帳の情報
  3. 被相続人の戸籍謄本の情報
  4. 被相続人の戸籍の附票謄本の情報
  5. 被相続人の住民票の除票の情報

これらの情報がどのように整合すればよいかはケースバイケースです。

なお、登記先例(法務省民二第1620号令和5年12月18日)では次の3つの条件が揃えば相続人全員の上申書は不要としています。

  • 登記記録上の不動産の表示及び所有権登記名義人の氏名
  • 固定資産税の納税証明書又は評価証明書(以下、「納税証明書等」)に記載された不動産の表示及び納税義務者の氏名

が一致し、

  • 納税証明書等に記載された納税義務者の住所及び氏名
  • 被相続人の住民票の写し又は戸籍の附票の写し(以下、「住民票の写し等」)に記載された被相続人の住所及び氏名

が一致し、

  • 住民票の写し等に記載された被相続人の本籍及び氏名
  • 被相続人に係る戸籍、除籍又は改製原戸籍の謄本(以下、「戸籍等の謄本)に記載された本籍及び氏名

が一致している。

 

step
6-2
不在籍証明書・不在住証明書

さらに、不動産の登記記録の被相続人の住所・氏名の人物について不在籍証明書・不在住証明書を取得します。

不在籍証明書・不在住証明書は、不動産の登記記録の被相続人の住所地を管轄する市町村で取得します。

step6-1及びstep6-2の書類が揃いましたら「被相続人の同一性の証明」をするための書類収集は一応終了です。

但し、step6-1及びstep6-2ではどこまで書類を揃えればよいという話ではないと考えます。この場合には「被相続人の同一性の証明」をするための書類をできるだけ多く収集すべきでしょう。

上申書

「被相続人の同一性の証明」においては最終手段として相続登記にかかる被相続人の相続人全員の上申書を提出することがあります。

そもそも「被相続人の同一性の証明」において、相続人全員の上申書はいわゆる自己証明にあたるため、上申書は実質的に意味のある書類ではありません。

また、例えば判決による登記の前提として、代位登記で相続登記を申請する場合や、遺産分割調停に基づいて調停調書で相続登記を申請する場合には相続人全員の上申書を揃えることは困難です。

よって、習慣的に上申書頼みで登記申請することは避けるべきでしょう。

遺言公正証書

相続登記の登記原因証明情報として、遺言公正証書が提供された場合についても同様に「被相続人の同一性の証明」が必要です。

この場合のstep6において、登記先例(法務省民二第1620号令和5年12月18日)では次の3つの条件が揃えば相続人全員の上申書は不要としています。

  • 登記記録上の不動産の表示及び所有権登記名義人の氏名
  • 納税証明書等に記載された不動産の表示及び納税義務者の氏名

が一致し、

  • 納税証明書等に記載された納税義務者の住所及び氏名
  • 遺言公正証書に記載された遺言者の住所及び氏名

が一致し、

  • 遺言公正証書に記載された遺言者及び相続人の氏名及び生年月日
  • 戸籍等の謄本に記載された被相続人及び相続人の氏名及び生年月日

が一致している。

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