身上監護とは
身上監護は成年後見制度における成年後見人の業務を説明する際によく出てくる言葉です。そして、成年後見制度は民法という法律で規定されていますが、身上監護について民法は明確な定義付けや説明をしていません。もっとも、身上監護の中身を紐解く条文が存在します。それは民法858条です。
民法
(成年被後見人の意思の尊重及び身上の配慮)
第八百五十八条 成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。
身上配慮義務
民法858条は成年後見人の身上配慮義務を規定しています。身上配慮義務とは成年後見人が成年被後見人の財産管理と身上監護をする際に要求される、成年後見人の態様です。
財産管理と身上監護
ところで、成年後見人の業務は大きく財産管理と身上監護に分類されます。そして、民法858条の「財産の管理に関する事務」は財産管理を意味します。
また、同条の「生活、療養看護・・・に関する事務」は身上監護を意味します。そして、「療養」とは医療を受けて体を休めることを、「看護」とは日常生活を送るための支援をいいます。
よって、身上監護の例は次のものです。
- 医療施設・介護施設での手続き
- 住宅確保のための手続き
- 日用品の購入手続き
また、このような手続きを法律行為といいます。
事実行為
これに対し、成年被後見人に対する現実の介護や、成年被後見人の送迎などのサービスを事実行為といいます。
ここで、身上監護に事実行為が含まれるか問題となります。これについては民法858条が「事務」と規定していますので、事実行為は原則身上監護に含まれないと解されています。
しかし、事実行為と法律行為は簡単に区別できるものではありません。
例えば、成年被後見人のテレビが故障した場合に、新しいテレビを購入する手続きは身上監護としての法律行為です。これに対し、テレビの配線やチャンネル登録は身上監護としての事実行為です。このように日常生活では事実行為と法律行為はセットで行われるものであり、その境目はグラデーションのように曖昧です。
よって、成年後見人は成年後見制度に反しない限度で身上監護としての事実行為をすることができます。
以上が身上監護の説明です。
家族信託と身上監護
最後に家族信託と身上監護の関係について説明します。
家族信託と成年後見制度の大きな違いは身上監護の有無にあります。すなわち、成年後見制度では、成年後見人は成年被後見人の身上監護をします。
これに対し家族信託では身上監護を信託の対象とすることはできません。
そこで、家族信託を設計する際に身上監護が必要な場合には家族信託と併せて任意後見制度の検討が必要となります。任意後見制度の説明はここでは割愛します。