遺言信託の意味
まず遺言信託の中身を説明します。
遺言信託とは信託銀行や信託会社(以下、「信託銀行等」といいます。)に遺言の取扱いにおける一連の過程を依頼する契約です。この一連の過程とは次の手続きです。
- 遺言作成
- 遺言保管
- 遺言執行
これらについてそれぞれ説明します。
遺言作成
遺言信託における遺言作成とは公正証書遺言の作成をいいます。公正証書遺言は公証人及び証人二名の立ち合いの下で作成されますので、自筆証書遺言に比べて証明力が高いです。
遺言作成は遺言信託の土台となるものです。そしてこの土台となる遺言が無効となれば元も子もありません。そのため、遺言信託では自筆証書遺言ではなく、公正証書遺言を作成します。
また、遺言作成においては弁護士や司法書士などの専門家が信託銀行等のアドバイザーとして関与します。
遺言保管
公正証書遺言の原本は公証役場で保管されますので、紛失・改ざんの心配が不要です。そのため、公正証書遺言の謄本を信託銀行等が保管する実益はあまりありません。しかし、遺言者の死亡後に迅速に遺言内容を実現するために信託銀行等は公正証書遺言の謄本を保管しています。
遺言執行
遺言執行とは遺言内容を実現するための行為をいいます。例えば預貯金の相続手続きや相続登記です。遺言信託では信託銀行等が遺言執行をします。
また、遺言執行は遺言者の死亡後にはじまります。そして、信託銀行等は通常遺言者の死亡の事実を把握していませんので、遺言者の相続人等が信託銀行等に遺言者の死亡の事実を通知します。具体的には遺言者の死亡除籍の記載のある除籍謄本を提出します。
以上が遺言信託の中身の説明です。
遺言執行者
次に遺言執行者について説明します。
前述のとおり、遺言信託では信託銀行等が遺言執行をします。そして、この遺言執行をする者を遺言執行者といいます。
遺言は遺言者の死亡により効力が発生しますので、遺言者自身が遺言内容を実現するために動くことはできません。そこで、遺言者の代わりに動く者が必要です。この代わりの者が遺言執行者です。
遺言者は遺言で遺言執行者を指定できます。また、遺言執行者は一度就任すると、家庭裁判所の許可を得なければその地位を辞任することができません。
遺言執行者の資格
このように遺言執行者は重要な任務を負っていますので、未成年者及び破産者は遺言執行者になれません(民法1009条)。しかし、遺言執行者になれるのは信託銀行等に限られず、遺言者の推定相続人なども遺言執行者になれます。
もっとも、相続登記や自動車の名義変更など、遺言執行には高度な知識が必要なものがあります。そこで、司法書士や行政書士を遺言執行者にすることがあります。
しかし、これらの「人」を遺言執行者とした場合、遺言者より先にこれらの「人」が死亡する可能性があります。これに対し、信託銀行等を遺言執行者とした場合、遺言者より先に信託銀行等がなくなる可能性は極めて低いです。
遺言執行者の権限
また、遺言執行者は遺言執行に必要な行為をする権利義務を有します(民法1012条)。さらに、相続人は遺言執行者の遺言執行を妨害することはできず、妨害行為として行った相続人の行為は無効です(民法1013条)。
以上が遺言執行者の説明です。
信託行為としての遺言
最後に遺言信託と混同される制度をお伝えします。それは信託行為としての遺言です。
信託行為としての遺言とは信託法上の信託であり、前述の遺言信託とは全く別の制度です。そして、金融機関がWEBサイトで紹介している「遺言信託」は前述の遺言信託であり、信託行為としての遺言ではありません。
信託行為としての遺言の説明はここでは割愛します。(信託行為についてはこちらの記事をご参照ください。)