概要
はじめに戸籍制度の概要を説明します。
編製
編製とは、戸籍を新たに作成することです。
例えば、日本人同士の男女が婚姻した場合、夫婦と、その夫婦と氏が同じ子を一つの単位として戸籍が編製されます。
夫婦となった男女はその片方の氏を名乗りますが、「名乗る氏」を元から有する方を「筆頭者」といいます。
また、その夫婦に子が生まれますと、その子はその夫婦の戸籍に入ります。
改製
改製とは、戸籍を既存の様式から新しい様式に作り直すことです。
改製は戸籍の根拠法令が改正された場合に生じます。
そして、改製前の戸籍、すなわち、改製によって作り直された前の戸籍を「改製原戸籍」といいます。
改製により、既存の様式の戸籍の情報は、新しい様式の戸籍に移記されます。
但し、改製により移記される情報は、従前の戸籍に在籍する人物の情報だけです。
すなわち、既存の様式の戸籍内で除かれている人物の情報は改製により移記されません。
戸籍の電算(コンピュータ)化
紙で管理していた戸籍を電子データで管理するために行われた改製を「戸籍の電算(コンピュータ)化」といいます。
令和2年に全国の市町村で戸籍の電算(コンピュータ)化が完了しています。
謄本と抄本
戸籍には謄本と抄本があります。
謄本には戸籍内の人物全員の情報が記載されています。
これに対し、抄本には戸籍内の人物の一部の情報が記載されています。
すなわち、抄本を請求する場合は戸籍請求書で「戸籍内のいずれの者の証明が必要か」を明らかにします。
また、戸籍内の人物が一人の場合には謄本と抄本で中身はかわりません。
なお、戸籍謄本は「戸籍全部事項証明書」と、戸籍抄本は「戸籍個人事項証明書」ともよばれます。
戸籍と除籍
戸籍内の人物はその戸籍から除かれることがあります。
これを「除籍」といいます。
除籍されるきっかけは、例えば戸籍内の人物の死亡や、戸籍内の夫婦の子の婚姻です。
そして、戸籍謄本内の人物が全員除籍された場合、この戸籍謄本は除籍謄本となります。
なお、実務上は「戸籍」と「除籍」という用語を区別する実益は少ないです。理由は後述します。
以上が戸籍制度の概要です。
見方
次に戸籍の電算(コンピュータ)化後の戸籍謄本、すなわち、戸籍全部事項証明書の見方を説明します。なお、ここではこの戸籍謄本を便宜的に「戸籍」とよびます。
大枠
まず戸籍の大枠を説明します。
この説明に使用する戸籍の見本は合計2枚で構成されます。
そして、「戸籍に記録されている者」の名の欄には戸籍内の人物の名が入ります。
戸籍内の人物は皆、筆頭者の氏を称しますので、戸籍内の人物のそれぞれの欄に氏の記載はありません。
氏は上段の筆頭者の氏を確認します。
また、この戸籍には「戸籍に記録されている者」の欄が4つありますので、4人分の情報が記載されていることがわかります。
以上が大枠の説明です。
次に戸籍の各項目を説明します。
冒頭
冒頭には、戸籍のページ番号とページ数が記載されます。
また、その隣には謄本を意味する「全部事項証明」の記載があります。
これに対し、抄本の場合は「個人事項証明」と記載されます。
本籍・氏名
ここには本籍と、筆頭者の氏名が記載されます。
戸籍事項
戸籍事項欄には在籍者全員に共通する事項が記載されます。
在籍者全員に共通する事項とは、例えば、編製や転籍の情報です。
戸籍事項欄の「改製事由」とは改製のきっかけです。この改製事由は戸籍の電算(コンピュータ)化です。
すなわち、平成6年法務省令基づいて改製がなされ、平成16年11月3日に戸籍が編製されたことがわかります。
そして、その下には、本籍が行政区画の変更により変わった場合の記載例があります。
また、仮に、他の市町村へ転籍し、戸籍が閉鎖された場合は、戸籍事項欄に転籍日・転籍先が記載されます。
戸籍に記録されている者(筆頭者)
戸籍事項欄の次の、「戸籍に記録されている者」には、筆頭者の情報が記載されます。
そして、その下の身分事項には対象者の出生、婚姻、死亡などの情報が記載されます。
この筆頭者の身分事項には「死亡」の記載があります。
筆頭者は死亡により除籍されていますので、筆頭者の欄に「除籍」と記載されます。
また、この戸籍は筆頭者の平成16年11月3日改製後から死亡までのものであることがわかります。
仮に筆頭者の出生から死亡までの戸籍を収集しているならば、筆頭者の出生から平成16年11月3日改製前までの戸籍を追加で請求しなければなりません。
具体的にはこの本籍地の市町村に対し、戸籍の範囲を指定して請求します。
また、この筆頭者は死亡により除籍されていますので、この謄本は筆頭者の除籍を表すものです。
ところで、仮に筆頭者が平成16年11月3日改製前原戸籍内で死亡し除籍されている場合、改製後の戸籍には筆頭者の「名」、「生年月日」、「父」、「母」、「続柄」及び「除籍」の文言は記載されますが、筆頭者の身分事項は記載されません。
戸籍に記録されている者(配偶者)
筆頭者の情報の次に、筆頭者の配偶者の情報が記載されます。
この配偶者の身分事項には出生、婚姻及び配偶者の死亡の情報が記載されています。
ここで、配偶者の身分事項の婚姻日と、戸籍事項の改製日を見比べますと、婚姻日の方が前です。
よって、この戸籍は配偶者の平成16年11月3日改製後から戸籍の証明日までのものであることがわかります。
つまり、配偶者は戸籍の証明日時点で存命です。
このような戸籍は配偶者の「現在の戸籍」とよばれます。
戸籍に記録されている者(長男)
筆頭者の情報及び筆頭者の配偶者の情報の次に、夫婦の子などの情報が記載されます。
夫婦の子が複数いる場合は、子は原則生まれた順番で記載されます。
長男の身分事項には出生及び婚姻の情報が記載されています。
すなわち、長男は婚姻により除籍され、長男夫婦のために新たな戸籍が編製されています。
そのため、長男の欄に「除籍」と記載されています。
ここで、長男の身分事項の出生日と、戸籍事項の改製日を見比べますと、出生日の方が前です。
よって、この戸籍は長男の平成16年11月3日改製後から平成28年7月7日婚姻までのものであることがわかります。
仮に、長男の婚姻により新たに編成された戸籍が必要な場合は、身分事項の婚姻の情報を確認します。
具体的には、「新本籍」で婚姻後の戸籍の本籍を、「配偶者氏名」及び「称する氏」で婚姻後の戸籍の筆頭者を特定し、その本籍地の市町村に対し、戸籍の範囲を指定して請求します。
また、長男は婚姻により除籍されていますので、この謄本は長男の除籍を表すものです。
戸籍に記録されている者(二男)
二男の身分事項には出生の情報が記載されています。
ここで、二男の身分事項の出生日と、戸籍事項の改製日を見比べますと、出生日の方が前です。
よって、この戸籍は二男の平成16年11月3日改製後から戸籍の証明日までのものであることがわかります。
つまり、二男は戸籍の証明日時点で存命で、この謄本は二男の現在の戸籍です。
筆頭者の相続人
ところで、仮にこの筆頭者の第一順位の相続人たる筆頭者の子を調査している場合、この戸籍では筆頭者の子が二名いるという情報が得られます。
もっとも、その情報だけで「筆頭者の子が二名だけである」と判断するのは早計です。
既述のとおり、この戸籍は、筆頭者の平成16年11月3日改製後から死亡までの戸籍に過ぎません。
戸籍の改製日である平成16年11月3日時点での筆頭者の年齢を考慮しますと、改製前の戸籍も収集しなければ、筆頭者の子の調査は終わりません。
下段
戸籍の下段には発行番号が記載されます。
また、戸籍の最後のページの下段にはこれに加えて、証明文言、証明日、市町村長名及びその印が記載されます。
このうち、証明文言につき戸籍謄本であれば「これは、戸籍に記録されている事項の全部を証明した書面である。」と記載されます。
これに対し、除籍謄本であれば「これは、除籍に記録されている事項の全部を証明した書面である。」と記載されます。
以上が戸籍の見方です。
表現方法
話は変わりまして、先ほど、この謄本は筆頭者及び長男の除籍を表すもので、配偶者及び二男の現在の戸籍であると説明しました。
これが何を意味するかといいますと、「戸籍」と「除籍」という表現は、同じ謄本内でも証明対象者によって変わるものであることです。
そのため、既述のとおり、実務上は「戸籍」と「除籍」という用語を区別する実益は少ないです。
そして、この謄本のように、同じ謄本内で「除籍」の要素と「現在の戸籍」の要素両方を含んでいる場合、すなわち、戸籍内の人物全員が除籍されていない場合、謄本は戸籍謄本です。
よって、このような謄本を取得するための手数料は戸籍謄本の手数料です。除籍謄本の手数料ではありません。
もっとも、請求する謄本が戸籍謄本か除籍謄本かは実際に取得してみなければわからないことが多いです。
第十四条 氏名を記載するには、左の順序による。
第一 夫婦が、夫の氏を称するときは夫、妻の氏を称するときは妻
第二 配偶者
第三 子
②子の間では、出生の前後による。
③戸籍を編製した後にその戸籍に入るべき原因が生じた者については、戸籍の末尾にこれを記載する。