相続に関する用語
相続
相続とは亡くなった人の権利義務を親族が引き継ぐことです。よって、相続の効果はある人が亡くなった以後に生じます。また、亡くなった人の権利義務を引き継ぐ親族は法律で定められていますが、遺言などで法律で定められていない者に権利義務を引き継がせることもできます。
被相続人
被相続人とは、相続される人、すなわち、亡くなった人です。
相続人
相続人とは、相続により被相続人の権利義務を引き継ぐ人です。
配偶者
配偶者とは、夫又は妻です。内縁の夫婦の片方は配偶者ではありません。
相続から遺産分割までの流れ
相続発生後、遺産の最終的な帰属先を決めるをことを遺産分割と呼びます。遺産分割は相続人全員の合意により成立し、かかる合意のための話し合いを遺産分割協議と呼びます。遺産分割は通常各相続人の相続分に基づいてなされます。そのため、遺産分割協議をする前提として相続人を確定し、各相続人の相続分を確定する必要があります。この場合の流れは次のとおりです。
法定相続人の確定
被相続人の法定相続人を確定します。誰が相続人になるかは民法で定められています。この民法で定められた相続人を法定相続人といいます。
法定相続人の修正
もっとも、法定相続人が常に相続人となるとは限りません。すなわち、法定相続人の中には相続人となる資格を有しない者が存在することがあります。法定相続人が相続人の資格を有しない場合とは、法定相続人に相続放棄、相続欠格又は推定相続人の廃除という事由が存在する場合です。そのため、法定相続人にかかる事由が存在するか確認します。
法定相続分の確定
相続人が確定すれば、各々の法定相続分を確定します。法定相続人の相続分は民法で定められています。この民法で定められた相続分を法定相続分といいます。
法定相続分の修正
もっとも、相続人が法定相続分通り相続するとは限りません。すなわち、法定相続分は、遺言による相続分の指定、特別受益、寄与分、相続分の譲渡及び遺留分という事由によって、修正されることがあります。そこで、法定相続分を修正するかかる事由が存在するかを確認します。
遺産分割
各相続人の相続分が確定すると、これに基づいて遺産分割をします。必ずしも相続分に応じた遺産分割がなされる必要はなく、どのような遺産分割をするかは相続人の自由です。もっとも、相続人全員の合意がなければ遺産分割協議は成立しません。そのため、実際は相続分に応じた遺産分割がなされることが多いと考えられます。
法定相続人
遺産分割をするための最初の手順は法定相続人を把握することです。
配偶者
配偶者は常に相続人となります。そのため、第1順位、第2順又は第3順位の相続人がいずれかがいれば、その者と共同で相続人になります。
第1順位
配偶者以外に相続人となりうる者は複数います。もっとも、相続人になりうる者それぞれに優先順位があり、この優先順位が高い者が相続人となります。そして、第1順位、第2順位、第3順位の順で優先されます。
被相続人の子は第1順位の相続人です。そして、子には被相続人の養子も含みます。また、被相続人の死亡以前にその子が死亡していれば、その子の子、すなわち被相続人の孫が相続人となります。この場合に孫は子に代わって相続しますが、これを代襲相続と呼びます。さらに、被相続人の死亡以前に子と孫が死亡していれば、被相続人のひ孫が相続人となります。この場合にひ孫は子及び孫に代わって相続しますが、これを再代襲相続と呼びます。
第2順位
被相続人の直系尊属は第2順位の相続人です。直系尊属が複数いればその全員が相続人となります。例えば、被相続人に実父母と養親がいる場合、実父母及び養親はいずれも相続人となります。もっとも、親等が異なる場合には親等が近い直系尊属が相続人となります。例えば、被相続人に父母と祖父母がいる場合、被相続人からみて父母は1親等、祖父母は2親等ですので、父母が相続人となり、祖父母は相続人とはなりません。
第3順位
被相続人の兄弟姉妹は第3順位の相続人です。また、被相続人の死亡以前に兄弟姉妹が死亡していれば、兄弟姉妹の子、すなわち被相続人の甥姪が相続人となります。この場合には被相続人の甥姪は被相続人の兄弟姉妹に代わって相続しますが、これを代襲相続と呼びます。
法定相続人の修正
法定相続人が確定すると、法定相続人の中に相続人となる資格を有しない者がいるかを確認します。
相続放棄
法定相続人が相続放棄をすると相続人となりません。相続放棄の詳細はこちらの記事をご覧ください。
相続欠格
要件
法定相続人に相続欠格事由があると相続人となりません。ある者の法定相続人となりうる地位を推定相続人といいますが、推定相続人が一定の行為をした場合、相続欠格事由に該当し、相続人となる資格を失います。この一定の行為は民法891条に規定してありますが、具体的には被相続人を殺害したり、遺言を破棄したりすることです。なお、親孝行が足りなかったというだけでは相続欠格になりません。
効果
相続欠格事由があると当然に法定相続人となる資格を失います。そのため、家庭裁判所や市区町村での手続きは不要です。また、法定相続人が相続欠格に該当し、相続人とならない場合でも、相続欠格者の子は代襲相続する権利があります。
推定相続人の廃除
趣旨
推定相続人の廃除を受けた法定相続人は相続人となりません。推定相続人の排除とは、被相続人が生前又は遺言で、遺留分を有する推定相続人を法定相続人から除外する手続きです。推定相続人の廃除の対象は遺留分を有する推定相続人に限られます。なぜなら、遺留分を有しない推定相続人に相続をさせたくなければ遺言でその旨記載すれば足りるからです。これに対し、遺留分を有する推定相続人に相続をさせない旨の遺言を残しても、遺留分を除外することはできません。
要件
推定相続人を廃除するための要件は民法第892条に規定されています。そして、推定相続人の廃除は家庭裁判所に請求しなければなりません。また、遺言で推定相続人廃除の意思表示をすることができますが、この場合は遺言者の死亡後に遺言執行者が家庭裁判所に推定相続人の廃除を請求します。
効果
推定相続人の廃除が確定すると、法定相続人となる資格を失います。また、推定相続人の廃除をされた者の子は代襲相続する権利があります。
法定相続分
相続人が確定すると、各々の法定相続分を計算します。法定相続分とは民法で規定された相続人の相続分です。
第1順位と配偶者
第1順位者と配偶者が相続人の場合、第1順位者:配偶者=1:1となります。そして、第1順位者が複数いるとき、第1順位者間の相続分は等しいです。
例:相続人が、配偶者と子2人の場合、配偶者が2/4、子が各々1/4
第2順位と配偶者
第2順位者と配偶者が相続人の場合、第2順位者:配偶者=1:2となります。そして、第2順位者が複数いるとき、第2順位者間の相続分は等しいです。
例:相続人が、配偶者、父及び母の場合、配偶者が4/6、父と母が各々1/6。
第3順位と配偶者
第3順位者と配偶者が相続人の場合、第3順位者:配偶者=1:3となります。第3順位者が複数いるとき、第3順位者間の相続分は原則等しいです。もっとも、被相続人と、「父母が共に同じであるの兄弟姉妹」と「父母の片方のみ同じである兄弟姉妹」では、前者の相続分は後者の相続分の2倍になります。
例1:相続人が、配偶者と両親共通の兄弟姉妹が2人の場合、配偶者が6/8、兄弟姉妹が各々1/8。
例2:相続人が、配偶者、「両親共通の兄弟姉妹」が1人及び「両親が片方のみ共通の兄弟姉妹」が1人の場合、配偶者が9/12、父母共通の兄弟姉妹が2/12、父母片方のみ共通の兄弟姉妹が1/12。
法定相続分の修正
法定相続分が確定すると、法定相続分を修正する事由がないか確認します。法定相続分を修正する事由とは、遺言による相続分の指定、特別受益、寄与分、相続分の譲渡及び遺留分です。
遺言による相続分の指定
遺言者は遺言で推定相続人の相続分を指定することができます。よって、遺言で相続分が指定されていれば、遺言者を被相続人とする相続においては遺言の相続分で相続します。
相続人間の相続分の譲渡
相続発生後、相続人間で相続分を譲渡(売買・贈与)することができます。
特別受益
制度趣旨
特別受益とは相続人が被相続人から相続以外で取得した財産で、相続財産に算入されるものを指します。例えば次の場合の財産です。
- 被相続人が相続人の一部に対して財産を生前贈与した。
- 被相続人が相続人の一部に対して財産を遺贈をした。
この場合、生前贈与や遺贈を受けた相続人が、法定相続分を有すれば相続人間に不公平が生じます。なぜなら、被相続人が生前贈与や遺贈をしなければその対象となる財産は相続に含まれ、法定相続分で相続されるはずだったからです。
そこで、特別受益という概念の下、法定相続分を修正し、相続人間の不公平を是正します。すなわち、上記の生前贈与や遺贈の目的物の財産の価格を、相続財産の価格に加えて、相続財産の総額を再計算します。もっとも、被相続人が遺言等で、特別受益を適用しない旨の意思表示をすることができます。この意思持ち戻し免除の意思表示といいます。
計算方法
事案
Aの死亡により相続が発生し、B、C、D及びEが相続した。法定相続分はBが3/6、その他が各々1/6。
Aの死亡時の財産(相続財産)は2,400万円。
Aは生前にCに対し300万円贈与していた(特別受益)。
特別受益を考慮しない場合の相続分
相続財産は全部で2,400万円
B=財産の3/6=1,200万円
C=財産の1/6=400万円
D=財産の1/6=400万円
E=財産の1/6=400万円
特別受益を考慮する場合の相続分
相続財産2,400万円に、Cが生前に贈与を受けた300万円を足す。
そして、この2,700万円を相続財産とみなす(民法903条)。
B=財産の3/6=1,350万円
C=150万円※
D=財産の1/6=450万円
E=財産の1/6=450万円
※Cは相続財産から法定相続分として150万円を取得しますが、生前贈与で既に300万円取得しているので、結果的に450万円を取得する。
また、特別受益の考慮により、特別受益を受けた者の相続分がゼロになったとしても、その者は相続人であることにかわりはありません。
寄与分
制度趣旨
寄与分とは相続人が、被相続人の相続財産の維持増加に貢献した財産で、相続財産から除かれるものを指します。すなわち、相続財産の総額から、相続人の一部の寄与により増加した財産の価格を控除して、法定相続分を計算します。そして、寄与により増加した財産の価格は、その寄与した者が取得します。相続財産の維持増加に貢献した相続人(寄与した者)は、その分だけ他の相続人より多くの相続分を取得すべきであると考えるのが寄与分の趣旨です。
計算方法
寄与分は「相続財産の価格」から「増加分の財産の価格」を控除し、相続財産を再計算します。
事案
Aの死亡により相続が発生し、B、C、D及びEが相続した。法定相続分はBが3/6、その他が各々1/6。
Aの死亡時の財産(相続財産)は2,400万円。
Aの生前、Bは相続財産が300万円増加するのに寄与した。
寄与分を考慮しない場合
相続財産は全部で2,400万円
B=財産の3/6=1,200万円
C=財産の1/6=400万円
D=財産の1/6=400万円
E=財産の1/6=400万円
寄与分を考慮する場合
相続財産2,400万円からBの寄与分300万円を引く。
つまり、相続財産を2,100万円とみなす(民法904条の2)。
B=財産の3/6=1,050万円
C=650万円※
D=財産の1/6=350万円
E=財産の1/6=350万円
※Cは相続財産から350万円(財産の1/6)取得し、寄与分として300万円取得(合計650万円)。
遺留分
制度趣旨
遺留分とは、第1順位者及び第2順位者に確保された相続分です。
被相続人は、遺言により相続人の相続分を指定したり、特定の財産を他人に遺贈したりできます。例えば、被相続人が生前に相続人とは無縁の他人に遺産すべてを遺贈することができます。
しかし、他方で、相続人は被相続人の財産をあてに生活していることがあります。それにも関わらず、被相続人がかかる他人に遺産全てを遺贈すれば残された相続人の生活が保障されず、不安定になります。
そこで、被相続人の相続財産の自由な処分と相続人の生活保障のバランスをとる必要があります。このバランスをとるのが遺留分の制度です。
また、第3順位は遺留分を有しません、これは第3順位者は被相続人の相続財産をあてにする立場にないと考えられるからです。
相続分に対する割合
相続人が第2順位者のみの場合、遺留分は相続財産の価格の1/3です。そして、遺留分を有する相続人が複数いれば、相続財産の価格の1/3を法定相続分に基づいて取得します。
他方、相続人がこれ以外の場合、遺留分は相続財産の価格の1/2です。そして、遺留分を有する相続人が複数いれば、遺産の価格の1/2を法定相続分に基づいて取得します。
遺産分割協議
遺産分割協議とは遺産分割をするための話し合いです。遺産とは被相続人の財産を、分割とはわけることを意味します。すなわち、遺産分割協議とは、相続財産を誰がどのように取得するかを決める話し合いです。
遺産分割協議の内容
「分割」は「遺産という物体自体を分ける」という意味と「遺産の共有状態を別々にする」という意味があります。
例えば、相続財産である土地を遺産分割するとします。そこで、「遺産という物体自体を分ける」方法としては、「1つの土地を区切り、東側を長男、西側を二男が取得する」方法があります。
これに対し、「遺産の共有状態を別々にする」方法としては、「A市の土地は長男、B市の土地は二男が取得する」方法があります。
遺産分割協議の要件
遺産分割協議は相続人全員の同意がなければ無効です。相続人全員が同意するには、相続人全員が意思表示できることが前提です。したがって、相続人が行方不明の場合や、認知症などの場合は遺産分割協議が成立しません。この場合は遺産分割協議前に別途手続が必要です。
遺産分割協議の効果
相続財産をどのように分配するかは相続人全員の合意の下、自由に決めることができます。また、遺産分割の内容に争いがある場合は、各相続人の相続分を基に協議がされることになります。遺産分割によって、相続財産の共有状態が終わり、相続財産の最終的な帰属先が決まります。