目次
相続の流れ
相続発生後、遺産分割協議を経て遺産の最終的な帰属先が決まる。
その流れは下記の通り。
法定相続人の確定
民法規定の相続人を確認する。
法定相続人の修正
相続放棄、相続欠格及び推定相続人の廃除の有無を確認する。
法定相続分の確定
民法規定の法定相続分を確認する。
法定相続分の修正
遺言による相続分の指定、特別受益、寄与分、相続分の譲渡及び遺留分の有無を確認する。
遺産分割協議
修正された法定相続分に基づいて遺産分割協議をする。
相続に関する用語
被相続人
相続される人。亡くなった人。故人。
相続人
相続により権利義務を承継する人。
配偶者
夫又は妻
直系と傍系
直系
自分の基準にして、縦に繋がる血縁関係。
例:祖父⇒父⇒自分⇒子⇒孫
傍系
親や祖父母などの上の世代を通して横に繋がる血縁関係。
例1:自分から見て、兄弟(自分の親を通して繋がっている。)
例2:自分から見て、叔父・叔母(自分の祖父母を通して繋がっている。)
血族と姻族
血族
血の繋がりのある者同士。
例:兄弟姉妹間、親子間、いとこ同士
配偶者は血族ではない。
養子縁組をすれば、養親と養子に血族関係が生じる(法定血族)。
姻族
- 自分の血族の配偶者
または - 自分の配偶者の血族
1の例:自分の兄弟の配偶者、自分の子の配偶者
2の例:自分の配偶者の兄、自分の配偶者のいとこ
尊属と卑属
尊属
自分のより上の世代の血族。
例:自分から見て、父母や祖父母
卑属
自分より下の世代の血族。
例:自分から見て、子や孫
親等
自分から血縁者までの距離。
配偶者との間に親等はない。
自分から血縁者まで、何本の「線」で繋がれているかを考えると数えやすい。
ここでは、「線」を「→」で表現する。
例1:自分と子の親等
自分→子(1親等)
例2:自分と孫の親等
自分→子→孫(2親等)
例3:自分と叔父の親等
自分→親→祖父母→叔父(3親等)
傍系の場合は、一旦、上の世代に戻って「線」を数える。
例4:自分と、いとこの親等
自分→親→祖父母→叔父・叔母→いとこ(4親等)
親族
- 6親等以内の血族
- 配偶者
- 3親等以内の姻族
法定相続人
配偶者
配偶者は常に相続人です。そして、第1順位、第2順及び第3順位の相続人がいずれかがいれば、その者と共同で相続人になります。
被相続人の死亡時に生きていれば、その後に亡くなっても相続人であることに変わりはありません。
第1順位
子は第1順位の相続人です。子には養子を含みます。
被相続人の死亡以前に子が死亡していれば、孫が相続人です(代襲相続人)。
さらに、被相続人の死亡以前に子と孫が死亡していれば、ひ孫が相続人です(再代襲相続人)。
第2順位
父母は第2順位の相続人です。
父母には、普通養子縁組をした養父母を含みます。実父母と養父母が双方がいる場合は全て相続人です。
被相続人の死亡以前に父母が死亡していれば、祖父母が相続人です。
なお、父母と祖父母がいる場合は、親等がより近い父母が相続人です。
第3順位
兄弟姉妹は第3順位の相続人です。
被相続人の死亡以前に兄弟姉妹が死亡していれば、兄弟姉妹の子が相続人です(代襲相続人)。
法定相続人の修正
相続放棄
相続放棄の詳細は下記の記事をご覧ください。
-
-
参考相続放棄
目次相続放棄とは相続放棄の場面相続放棄の効果権利義務の不承継他の相続人への影響相続人がいない場合相続放棄と財産放棄(遺産放棄)相続放棄の手続き期限流れ申立費用費用負担者 相続放棄とは 相続放棄とは、相 ...
続きを見る
相続欠格
要件
法定相続人となる資格を有する者(推定相続人)が一定の行為をした場合、相続人になる資格を失います(相続欠格)。
一定の行為とは、被相続人を殺害したり、遺言を破棄したりすることです。
一定の行為は民法891条に列挙してあります。
親孝行が足りなかったというだけでは相続欠格にはなりません。
効果
相続人でなくなります。欠格事由に該当すれば当然に相続欠格となり、家庭裁判所や市区町村での手続きは不要です。
但し、相続欠格者の子が代襲相続することはできます。
推定相続人の廃除
趣旨
一定の場合に、推定相続人を相続人から除外することができます。
ところで、特定の相続人に遺産をあげたくなければ、遺言を作成すればよいですが、その相続人が遺留分を有していれば、遺言でその相続人が取得する遺産をゼロにすることはできません。
そこで、遺留分を有する相続人を相続人から除外し、その相続人の取得する財産をゼロにすることができます。
これが推定相続人の廃除の制度趣旨です。
よって、廃除の対象は遺留分を有する相続人に限られます。
要件
推定相続人を廃除するための要件は民法第892条に規定されています。
そして、推定相続人の廃除の手続きは家庭裁判所に請求しなければなりません。
また、遺言で推定相続人の廃除をができます。この場合は遺言者の死亡後に遺言執行者が家庭裁判所に推定相続人の廃除を請求します。
効果
推定相続人の廃除が確定すると、相続人でなくなります。
但し、廃除された者の子が代襲相続することはできます。
法定相続分
民法で法律上定められた相続分を法定相続分と言います。
第1順位と配偶者
配偶者:第1順位=1:1
なお、第1順位間では相続分は等しいです。
例:相続人が、配偶者と子2人の場合、配偶者が2/4、子が各々1/4。
第2順位と配偶者
配偶者:第2順位=2:1
なお、第2順位間では相続分は等しいです。
例:相続人が、配偶者、父及び母の場合、配偶者が4/6、父と母が各々1/6。
第3順位と配偶者
配偶者:第3順位=3:1
なお、第3順位間では相続分は原則等しいです。
被相続人と、「両親が共に同じであるの兄弟姉妹」と「片方のみ同じである兄弟姉妹」では、後者の相続分は前者の半分になります(例外)。
例1:相続人が、配偶者と両親共通の兄弟姉妹が2人の場合、配偶者が6/8、兄弟姉妹が各々1/8。
例2:相続人が、配偶者、「両親共通の兄弟姉妹」が1人及び「両親が片方のみ共通の兄弟姉妹」が1人の場合、配偶者が9/12、両親共通の兄弟姉妹が2/12、両親片方のみ共通の兄弟姉妹が1/12。
法定相続分の修正
法定相続分は下記の事情で修正されます。
遺言による相続分の指定
遺言で相続人の相続分を指定することができます。
相続人間の相続分の譲渡
相続人間で相続分を譲渡(売買・譲渡)することができます。
特別受益
制度趣旨
被相続人が下記の行為をした場合、受贈者・受遺者は他の相続人より多くの財産を取得します。
- 相続人の一部に対して財産を生前贈与した場合
- 相続人の一部に対して財産を遺贈をした場合
これでは遺産分割において相続人間に不公平が生じます。
この不公平を解消するのが特別受益の制度です。
すなわち、上記の生前贈与や遺贈の目的物の財産の価格を、相続財産の価格に加えて、相続財産の総額を再計算します。
なお、被相続人が遺言等で、特別受益の再計算を不要とすることができます。
計算方法
事案
Aの死亡により相続が発生し、B、C、D及びEが相続した。法定相続分はBが3/6、その他が各々1/6。
Aの死亡時の財産(相続財産)は2,400万円。
Aは生前にCに対し300万円贈与していた(特別受益)。
特別受益を考慮しない場合の相続分
相続財産は全部で2,400万円
B=財産の3/6=1,200万円
C=財産の1/6=400万円
D=財産の1/6=400万円
E=財産の1/6=400万円
特別受益を考慮する場合の相続分
相続財産2,400万円に、Cが生前に贈与を受けた300万円を足す。
そして、この2,700万円を相続財産とみなす(民法903条)。
B=財産の3/6=1,350万円
C=150万円※
D=財産の1/6=450万円
E=財産の1/6=450万円
※Cは相続財産から150万円を取得するが、生前贈与で既に300万円取得しているので、結果的に450万円を取得する。
特別受益の計算により、相続分がゼロになっても相続人であることに違いはない。
寄与分
制度趣旨
相続人の一部が、被相続人の生前に、被相続人の財産の増加に貢献(寄与)した場合、法定相続分で遺産を分けるのは不公平です。
財産の増加に貢献した相続人は、その分だけ他の相続人より多くの相続分を取得すべきであると考えるのが寄与分の趣旨です。
すなわち、相続財産の総額から、相続人の一部の寄与により増加した財産の価格を控除して、法定相続分を計算します。
寄与により増加した財産の価格は、その寄与者が取得します。
計算方法
寄与分は「相続財産の価格」から「増加分の財産の価格」を控除し、相続財産を再計算します。
事案
Aの死亡により相続が発生し、B、C、D及びEが相続した。法定相続分はBが3/6、その他が各々1/6。
Aの死亡時の財産(相続財産)は2,400万円。
Aの生前、Bは相続財産が300万円増加するのに寄与した。
寄与分を考慮しない場合
相続財産は全部で2,400万円
B=財産の3/6=1,200万円
C=財産の1/6=400万円
D=財産の1/6=400万円
E=財産の1/6=400万円
寄与分を考慮する場合
相続財産2,400万円からBの寄与分300万円を引く。
つまり、相続財産を2,100万円とみなす(民法904条の2)。
B=財産の3/6=1,050万円
C=650万円※
D=財産の1/6=350万円
E=財産の1/6=350万円
※Cは相続財産から350万円(財産の1/6)取得し、寄与分として300万円取得(合計650万円)。
遺留分
制度趣旨
被相続人は、遺言により相続人の相続分を指定したり、特定の財産を他人遺贈したりできます。
他方で、相続人は被相続人の死後の生活のために被相続人の財産をあてに生活していることがあります。
そこで、この両者のバランスをとるための制度が遺留分です。
第3順位の相続人(被相続人の兄弟姉妹)に遺留分なし。 ⇒第3順位の相続人が被相続人の財産をあてにすること想定され難いから。
相続分に対する割合
相続人が第2順位(親)のみの場合
遺産の価格の1/3。
遺留分を有する相続人が複数いれば、遺産の価格の1/3を民法規定の相続分に基づいて取得します。
それ以外の場合
遺産の価格の1/2。
遺留分を有する相続人が複数いれば、遺産の価格の1/2を民法規定の相続分に基づいて取得します。
遺産分割協議
遺産分割協議の定義
遺産
被相続人が遺した財産。相続財産。
分割
いくつかに分けること。
協議
集まって相談すること。
遺産分割協議
誰がどの遺産を取得するか、最終的に決定する話し合い。
「分割」は「遺産という物体自体を分ける」という意味と「遺産の共有状態を別々にする」という意味があります。
「遺産という物体自体を分ける」の例
1つの土地を区切り、東側を長男、西側を二男が取得する。
「遺産の共有状態を別々にする」の例
松江市の土地は長男、出雲市の土地は二男が取得する。
遺産分割協議の要件
遺産分割協議は相続人全員の同意がなければ無効です。
相続人全員が同意するには、相続人全員が本人の意思に基づいて意思表示できることが前提です。
したがって、相続人が行方不明の場合や、認知症などの場合は遺産分割協議が成立しません。
その場合は遺産分割協議前に別途手続が必要です。
遺産分割協議の効果
遺産分割がされる前の相続財産は、相続人が各々の相続分に基づき共有しています。
相続財産をどのように分配するかは相続人全員の合意の下、自由に決めることができます。
また、遺産分割の内容に争いがある場合は、各相続人の相続分を基に協議がされることになります。
遺産分割によって、相続財産の共有状態が終わり、相続財産の最終的な帰属先が決まります。
相続登記や預貯金の相続手続きにおいて、複数の相続人の内、1人が相続財産を取得する場合は、遺産分割協議をする必要があります。