相続放棄の内容についてはこちらの記事をご参照ください。
相続放棄の申述
相続放棄をするには被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に、相続放棄申述書を提出しなければなりません。そして、相続放棄は原則相続人本人が申述しますが、相続人が未成年者や成年被後見人の場合はその法定代理人が代わって申述します。
また、相続放棄を管轄家庭裁判所に申し立てることを、「申述」と表現しますが、「申述」という言葉は慣例上使用されている言葉に過ぎませんので、「申述」=「申立て」と理解すればよいです。ここでは、相続放棄を申し立てる者を「申述人」と表現します。
相続放棄の必要書類
相続放棄申述書
相続放棄申述書は相続放棄をする相続人が記入する申立書です。この申立書のひな形はネットで、「相続放棄申述書」と検索すれば、家庭裁判所のサイトでダウンロードできます。
戸籍
相続放棄申述書には申述人が相続人であることを証明する戸籍を添付します。そして、必要な戸籍の範囲は申述人の相続人たる地位によって異なります。すなわち、申述人が第1順位から第3順位に上がるにつれて必要な戸籍の範囲は広くなります。また、申述人が配偶者の場合は戸籍の範囲が最も狭いです。具体的に必要な戸籍の範囲は後で説明します。
戸籍の附票
相続放棄には被相続人の戸籍の附票も必要です。戸籍の附票とは戸籍に付随して作成され、住所の変遷がわかるものです。そして、被相続人の戸籍の附票は、家庭裁判所が被相続人の最後の住所を確認するために提出します。
また、被相続人の最後の住所を確認する書類には、被相続人の戸籍の附票のほか、被相続人の住民票の除票もあります。そこで、戸籍の附票の代わりに本籍地の記入がある住民票の除票を提出しても構いません。
但し、被相続人の最後の本籍地と、最後の住所地が異なる場合には戸籍の附票と、住民票の除票の請求先が異なることがあります。
すなわち、戸籍の附票は被相続人の最後の本籍地の市区町村で取得できますので、請求する窓口は戸籍謄本と同じです。これに対し、住民票の除票は被相続人の最後の住所地の市区町村で請求しますので、請求する窓口が戸籍謄本と同じと限りません。
収入印紙
相続放棄には申述人1人につき収入印紙800円が必要です。収入印紙は相続放棄申述書の所定の欄に貼り付けます。
郵便切手
相続放棄を申述すると、家庭裁判所から申述人に対し書類が郵送されます。そのため、その郵送に必要な郵便切手を予め家庭裁判所に提出しなければなりません。これを予納郵券といいます。予納郵券の額・枚数は家庭裁判所によって異なります。松江家庭裁判所の場合は次のとおりです。
- 82円×3
- 10円×1
相続放棄に必要な戸籍
次に相続放棄に必要な戸籍の範囲を説明します。
戸籍には謄本と抄本がありますが、個人情報保護の観点からは謄本と抄本は厳密に区別して取得すべきです。しかし、戸籍制度を理解していなければこれらを区別して取得することは難しいです。
ところで、戸籍抄本が必要な場合に戸籍謄本を提出しても問題はありません。これは大は小を兼ねるからです。
これに対し、戸籍謄本が必要な場合に戸籍抄本を提出することは認められません。そのため、個人情報の管理上問題がなく、かつ手続きを簡易に進めたい場合には、取得する戸籍はすべて謄本を取得することをおすすめします。
ここでの必要書類の説明においても簡略化のため、戸籍抄本で足りる場合でもあえて戸籍謄本と説明します。それでは申述人の地位ごとに必要な戸籍の範囲を簡単に説明します。
配偶者が申述人
配偶者が申述人の場合、次の戸籍が必要です。
- 被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本
- 申述人の戸籍謄本
第1順位が申述人
第1順位者(例:被相続人の子)が申述人の場合、次の戸籍が必要です。
- 被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本
- 申述人の戸籍謄本
但し、第1順位者でも、代襲相続人(例:被相続人の孫)が申述人の場合はこれに加えて次の戸籍も必要です。
- 被代襲者(例:被相続人の子)の死亡の記載のある戸籍謄本
第2順位が申述人
第2順位者(例:被相続人の親)が申述人の場合、次の戸籍が必要です。
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
- 申述人の戸籍謄本
第3順位が申述人
第3順位者(例:被相続人の兄弟姉妹)が申述人の場合、次の戸籍が必要です。
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
- 第2順位者の死亡の記載のある戸籍謄本
- 申述人の戸籍謄本
なお、相続関係が複雑になると上記以外の戸籍も必要な場合があります。
法定相続情報一覧図
このように相続放棄では多くの戸籍を家庭裁判所に提出しますが、この戸籍の原本の返却を希望する場合、提出する戸籍をすべてコピーし、原本の返却を希望する旨の上申書を提出しなければなりません。
しかし、提出する戸籍をすべてコピーし、この上申書を作成することは煩雑です。そこで、戸籍を提出する代わりに法定相続情報一覧図を提出する方法があります。
法定相続情報一覧図とは法務局で作成する家系図の体裁をした証明書です。これを相続放棄の申述の前に作成しておけば、家庭裁判所での戸籍の原本返却の手間が省けます。但し、法定相続情報一覧図の作成自体に手間と時間がかかりますので、法定相続情報一覧図を作成すべきか否かはケースバイケースです。
相続放棄申述書の書き方
次に相続放棄申述書の書き方を説明します。ここでは相続人本人が相続放棄申述書を記入する場合の書き方を説明します。
申述先欄
相続放棄申述書の、申述人が記入する枠内の最上段には「 家庭裁判所 御中」と記載されてあります。ここには管轄の家庭裁判所、すなわち相続放棄申述書を提出する家庭裁判所名を記入します。
そして、管轄の家庭裁判所とは被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。ネットで「〇〇市 相続放棄 家庭裁判所」と検索すれば管轄の家庭裁判所がわかります。
日付欄
また、申述人が記入する枠内の最上段には「令和 年 月 日」と記載されています。ここには相続放棄申述書を家庭裁判所に提出する日を記入します。家庭裁判所に郵送する場合は発送日で構いません。
申述人欄
さらに、申述人が記入する枠内の最上段には「 印」と記載されています。ここには申述人の氏名を署名又は記名し、認印を押印します。ここに押印した印は以後、相続放棄の手続きで使用します。
添付書類欄
添付書類欄には次のように記入します。
- 戸籍謄本
- 戸籍の附票
申述人欄
申述人欄に申述人の次の情報を、戸籍謄本や身分証(例:運転免許証、マイナンバーカード)のとおり正確に記入します。
- 本籍
- 住所
- 氏名
- 生年月日
- 職業
- 被相続人との関係
職業は具体的に記入する必要はなく、「会社員」、「公務員」、「自営業」など抽象的な記入で構いません。
法定代理人等欄
法定代理人等欄は親権者、後見人、弁護士などが相続人に代わって家庭裁判所に申述する場合に使用する欄です。
相続人本人が家庭裁判所で手続きする場合には使用しませんので、この場合は空欄です。
被相続人欄
被相続人欄には被相続人の次の情報を、戸籍及び戸籍の附票のとおりに正確に記入します。
- 本籍
- 最後の住所
- 死亡当時の職業
- 氏名
- 死亡日
被相続人の「職業」は申述人の場合と同様に抽象的な記載で構いません。
申述の趣旨欄
申述の趣旨欄には「相続の放棄をする。」と記入します。
申述の理由欄
申述の理由欄は「相続の開始を知った日」欄、「放棄の理由」欄及び「相続財産の概略」欄で構成されます。
まず、「相続の開始を知った日」欄に被相続人の死亡を知った日を記入します。※配偶者及び第1順位者の場合
次に、「放棄の理由」欄に相続放棄をする理由を記入します。この理由の記入例は次のとおりです。
- 債務超過のため。
- 相続不動産の管理ができないため。
- 遺産の有無が不明のため。
最後に、「相続財産の概略」欄に、申述人が申述時に把握している相続財産を記入します。相続財産が多い場合には別途遺産目録を添付しても構いません。遺産目録を添付する場合には「相続財産の概略」欄に「別紙遺産目録のとおり」と記入します。
相続放棄の注意点
最後に相続放棄の注意点を説明します。
知った時
相続放棄の期限は自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内です。そのため、被相続人の死亡後3ヶ月を経過した後や、先順位者の相続放棄受理後3ヶ月経過した後に相続放棄の申述をする場合、この「知った時」を家庭裁判所に疎明する必要があります。
これに対し、被相続人の死亡後3ヶ月以内や先順位者の相続放棄受理後3ヶ月経過以内に相続放棄を申述する場合、申述がこの「知った時」から3ヶ月以内であることは明らかですので、「知った時」の疎明は不要です。例えば、配偶者や第1順位の相続人が、被相続人の死亡後3ヶ月以内に相続放棄の申述すると提出書類が少なくて済み、相続放棄の負担が軽減されます。
期間伸長
また、相続人は自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月の間に相続財産を調査して相続放棄をするか否かを判断します。しかし、この期間内に判断ができない場合は「相続放棄の期間伸長の申立て」をすることができます。これが認められると相続放棄の判断の期間が伸長されます。
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