相続人による所有権保存登記の概要
所有権保存登記
所有権保存登記とは不動産の表題登記後になされる登記です。
不動産の表題登記とは不動産が発生した後に最初にする登記で、不動産を調査して登記記録に起こす手続きです。例えば建物を新築した場合は建物を取得してから1か月以内に建物の表題登記をしなければなりません。
不動産の表題登記の申請は法律上の義務ですが、所有権保存登記は義務ではありません。但し、不動産を処分したり、担保に入れたりする場合にはその前提として所有権保存登記をしなければなりません。
そのため、住宅ローンを利用することなく建築された建物は所有権保存登記がなされていないことがあります。
なお、建物だけでなく土地も同様に土地の所有権保存登記がなされていない場合がありますが、稀です。ここでは便宜上建物の場合を説明しますが、土地でも同様の手続きとなります。
また、ここでの「建物」には区分建物は含みません。
相続人による所有権保存登記
建物を新築した場合、建物取得者が建物の表題登記をした後に、間もなく所有権保存登記をします。そのため、通常は建物の表題登記後の登記記録上の所有者と、所有権保存登記後の登記記録上の所有者は同じです。
しかし、建物の表題登記をした後、所有権保存登記をしないままでいると建物の表題登記後の登記記録上の所有者が死亡して相続が発生することがあります。
この場合には建物の表題登記後の登記記録上の所有者の相続人が所有権保存登記を申請します。このような登記をここでは便宜的に「相続人による所有権保存登記」と呼びます。
未登記の場合
所有権保存登記は建物の表題登記が完了していなければ申請できません。
そのため、建物につき所有権保存登記だけでなく建物の表題登記すらなされていない場合には先に建物の表題登記をします。建物の表題登記を依頼する専門家は土地家屋調査士です。
そして、この場合は現存の人を所有者とする建物表題登記がなされますので、この場合の所有権保存登記は相続人による所有権保存登記ではありません。
相続登記との違い
以上が相続人による所有権保存登記の説明ですが、ここで相続登記との違いを説明します。
相続登記と相続人による所有権保存登記は不動産の登記記録において「被相続人名義がどの箇所に記録されているか」という観点で区別できます。
すなわち、不動産の登記記録の権利部に被相続人名義が記録されていれば相続登記を、不動産の登記記録の表題部に被相続人名義が記録されており、権利部の登記がなされていなければ相続人による所有権保存登記を申請します。
なお、不動産の登記記録の内容は不動産の登記事項証明書を取得することで確認できます。
このように相続登記と相続人による所有権保存登記は被相続人名義が記録されている箇所が異なるに過ぎませんので、登記を申請する際の必要書類は基本的に同じです。
相続人による所有権保存登記の必要書類
次に相続人による所有権保存登記の必要書類を説明します。なお、必要書類の具体的な説明は「相続登記の申請方法」の動画内の説明と基本的に同じですので、ここでは割愛します。
固定資産税の課税明細書
登記における登録免許税を算定するため、不動産の直近の固定資産税課税明細書を添付します。固定資産税の課税明細書には固定資産税の評価額が記載されてあり、これが課税価格のもとになります。なお、固定資産税の名寄帳や固定資産税の評価証明書でも構いません。
不動産の登記事項証明書
不動産の登記事項証明書とは、不動産の登録内容を証明する書類です。不動産の登記事項証明書は法務局が発行するもので、登記事項証明書が取得できる法務局であれば、不動産の所在地を問わず、全国どこの法務局でも取得できます。
また、法務局で登記事項証明書を取得する代わりにインターネットで登記情報を取得することもできます。登記情報とは登記事項証明書の内容をインターネット上で確認するものです。もっとも、登記情報の取得には登録手続きが必要ですので、登記のためだけに登記情報を取得することはかえって手続きを煩雑にする可能性があります。
なお、不動産の登記事項証明書及び登記情報は登記申請書の添付書類ではありませんので法務局に提出しませんが、登記申請書の作成に必要な書類です。
被相続人の戸籍
登記を申請にするには被相続人の戸籍が必要です。そして、必要な被相続人の戸籍の範囲は出生から死亡までの戸籍謄本です。出生から死亡までの戸籍謄本が必要な理由は、被相続人の相続人全員を確定する必要があるからです。また、戸籍制度の仕組みを理解していなくても、市区町村の窓口で、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本が必要である旨を伝えれば窓口の人は理解・対応してくれます。
(なお、被相続人の死亡日が昭和22年5月2日以前の場合には旧民法が適用されます。この場合、登記に必要な被相続人の戸籍の範囲は出生から死亡までの戸籍謄本とは限りません。昭和22年5月2日以前に発生した相続の場合の説明はここでは割愛します。)
相続人の戸籍
登記を申請するには相続人の戸籍も必要です。登記に必要な相続人の戸籍の範囲は現在の戸籍抄本です。相続人の場合、被相続人との相続関係が分かれば足りますので、必要な戸籍は現在の抄本だけです。無論、現在の戸籍謄本でも構いません。また、被相続人と同一戸籍に在籍する相続人の戸籍と、被相続人の戸籍は重複することがあります。この場合の重複分は1通で構いません。
戸籍の附票
被相続人と相続人の戸籍を取得する際には、併せてこれらの者の戸籍の附票を取得します。戸籍の附票とは戸籍に付随して作成され、住所の変遷がわかるものです。そして、戸籍の附票は本籍地及び筆頭者入りのものを取得します。
被相続人の戸籍の附票は、不動産の登記事項証明書の表題部記載の被相続人の住所と、被相続人の戸籍の附票上の住所が一致するかを確認するために取得します。これに対し、相続人の戸籍の附票は相続人の住所を確認するために取得します。
なお、被相続人の登記事項証明書記載の住所と、被相続人の戸籍の附票上の住所が一致しない場合は、不動産の登記済証などを添付することになります。
遺産分割協議書
登記を申請する場合には遺産分割協議書を作成することが多いです。遺産分割協議書とは遺産分割の内容を証明する書類です。そして、遺産分割とは遺産を相続人の一人が取得したり、法定相続分と異なる割合で相続人が取得したりすることです。
ところで、遺産分割がなされない場合、被相続人の不動産は相続発生後、原則相続人全員の共有となります。よって、遺産分割をせずに相続登記をする場合、原則法定相続人全員名義で、かつ各々の法定相続分を記載して登記します。しかし、一般に不動産は多数で共有するより、少数で共有するか、一人で所有する方がなにかと便利です。そのため、登記の前に遺産分割をし、不動産を相続人の一人が取得した上で、登記をすることが多いです。また、遺産分割は相続人全員の合意の下で成立しますので、遺産分割協議書は相続人全員が署名押印する必要があります。
なお、遺産分割協議書の作成が不要な場合の例は次のとおりです。
- 相続人が1人である。
- 被相続人の遺言のとおりに登記をする。
- 相続放棄の証明書を添付して登記をする。
印鑑証明書
遺産分割協議書は相続人全員が署名押印しますが、相続人本人が署名押印したことを法務局に証明する必要があります。そのため、遺産分割協議書には各相続人が実印を押印し、その印鑑証明書を添付します。また、外国に居住する相続人は印鑑証明書を取得できないことがあります。この場合には署名証明を添付して相続人本人の署名であることを証明します。
以上が相続による所有権保存登記の必要書類です。
相続人による所有権保存登記の申請書
最後に相続による所有権保存登記の申請書の書き方を説明します。ここでは不動産の表題部に記録された被相続人の子が登記を申請する場合の書き方を説明します。
登記の目的
登記の目的には「所有権保存」と記入します。
登記の目的 | 所有権保存 |
所有者
所有者欄にはまず括弧書で「被相続人〇〇」と記入します。ここには表題部に所有者として記載された被相続人の氏名を記入します。
次に建物を取得する者の住所・氏名・連絡先を記入し、認印を押印します。
所有者 | (被相続人 田中花子) 島根県松江市殿町一丁目1番1号 田中太郎 ㊞ 電話番号 090-0000-0000 |
添付情報
添付情報には「住所証明情報」及び「相続証明情報」と記入します。
添付書類 | 住所証明情報 相続証明情報 |
申請日には登記申請書を法務局に提出する日を記入します。郵送の場合は発送日で構いません。
また、申請日の横に「法第74条第1項第1号申請」と記入します。
さらに、申請日の横に、登記を申請する管轄の法務局名を記入します。管轄の法務局とは不動産の所在地を管轄する法務局です。管轄の法務局はネットで「〇〇市 不動産登記」と検索すれば出てきます。
令和6年4月1日 法第74条第1項第1号申請 | 松江地方法務局 |
課税価格
課税価格にはその金額を「金○○円」と記入します。課税価格は登録免許税の算定の基礎となるものです。
課税価格は、申請する不動産の固定資産税評価額の合計額の下三桁を切り捨てた額です。例えば、建物Aの評価額が7,654,321円、建物Bの評価額が1,462,154円の場合、まず、これらを足します。すると合計額が9,116,475円になります。次に、この額の下三桁を切り捨てます。すると課税価格である9,116,000円が算定されます。これが課税価格の算定方法です。
固定資産税の評価額は固定資産税課税明細書に記載されてあります。そして、固定資産税の評価額は直近年度のものです。
ただし、登録免許税の免税を受ける場合には課税価格を記入する必要はありません。
(なお、本記事投稿時点では土地の評価額が100万円以下の場合、その土地には登記の登録免許税は課されません。)
課税価格 | 金9,116,000円 |
登録免許税
登録免許税にはその金額を金〇〇円と記入します。登録免許税の額は、課税価格の0.4%にあたる額の下二桁を切り捨てた額です。例えば、課税価格が9,116,000円の場合、9,116,000円の0.4%にあたる額は36,464円です。そして、この額の下二桁を切り捨てます。すると登録免許税の額である36,400円が算定されます。これが登録免許税の算定方法です。
なお、この算定方法による算定の結果が1,000円未満となった場合、登録免許税は一律1,000円です。登録免許税は収入印紙で納付しますので、登録免許税の金額分の収入印紙を購入し、A4サイズの白紙に貼り付けます。
また、登録免許税が免税の場合には、「租税特別措置法第84条の2の3第2項により⾮課税」のように、免税の根拠条文を記入します。
登録免許税 | 金36,400円 |
登録免許税 | 租税特別措置法第84条の2の3第2項により⾮課税 |
不動産の表示
不動産の表示には、建物の所在・家屋番号・種類・構造・床面積を記入します。これらは不動産の登記事項証明書のとおりに記入します。
所在 地番 地目 地積 |
松江市殿町一丁目 11番 宅地 100・00平方メートル |
所在 家屋番号 種類 構造 床面積 |
松江市殿町一丁目11番地 11番 居宅 木造かわらぶき2階建 1階 40・00平方メートル 2階 30・00平方メートル |
その他
以上が登記申請書の書き方ですが、これらの事項以外に申請書に記入すべきことがある場合、申請書に「その他」欄を追加し、この欄に記入します。例えば、登記識別情報の通知を希望しない場合には、「その他」欄に「登記識別情報の通知を希望しない。」と記入します。
ところで、所有権保存登記を申請した者には登記完了後に登記識別情報が通知されます。登記識別情報とはいわゆる不動産の権利証です。そして、登記識別情報の通知を希望しない場合、その旨を登記の申請時に申し出ると、登記識別情報の通知はなされません。なお、登記識別情報の通知につき特別の事情がなければ、登記識別情報の通知を希望すればよいです。
綴じ方
最後に申請書、収入印紙を貼った紙、添付書類の順番で重ねて、左端二か所をホッチキスでとめます。そして、申請書と収入印紙を貼った紙に契印(割印)をします。なお、戸籍や遺産分割協議書の原本の返還を希望する場合には、これらのコピーを申請書と一緒に綴じ、原本は綴じません。
以上が相続による所有権保存登記の申請書の書き方です。